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「塞翁が馬」 IPS山中伸弥教授に学ぶ 絶望をチャンスに変換する言葉

人生には予測できないことが次々と起こります。
一見良いことのように思える出来事が後に不幸を招くこともあれば、逆に不運に見えることが幸運に繋がることもあります。
そんな人生の不確実さを表す言葉が、中国の故事成語「塞翁が馬(さいおうがうま)」です。


「塞翁が馬」とは?

「塞翁が馬」とは、 良いことや悪いことが起きても、その結果がどうなるかは分からない という意味の言葉です。
この教えは、中国前漢時代の書物『淮南子(えなんじ)』に記された次のような物語に由来しています。

物語:塞翁が馬

昔、北辺のとりで(塞)の近くに住む老人(塞翁)がいました。彼の唯一の財産である馬が、ある日突然逃げてしまいます。
村人たちは「お気の毒に」と慰めますが、老人は冷静に「これが幸運の始まりかもしれない」と答えます。

数日後、逃げた馬が胡(異民族)の優れた駿馬を連れて戻ってきました。
村人たちは「良かったですね!」と喜びますが、老人は「これが不運の始まりかもしれない」と慎重です。

その後、老人の息子が駿馬に乗って遊んでいた時に落馬し、足を骨折してしまいます。
村人たちは「なんて災難なんだ」と嘆きますが、老人は「これが幸運に繋がるかもしれない」と再び冷静でした。

やがて戦争が起こり、村の若者たちは全員徴兵され命を落としました。しかし、足を怪我していた息子だけは徴兵を免れ、無事でいられました。

山中伸弥教授が語る「塞翁が馬」

平成27年度の近畿大学卒業式で行われたスピーチで、山中伸弥教授はこの「塞翁が馬」の話を紹介しながら、ご自身の人生を語りました。


医師としての挫折と研究者への転身

山中教授は医学部を卒業後、理想的な病院で働き始めました。
しかし、厳しい上司に毎日叱られ続け、「山中」という名前ではなく「邪魔中」と呼ばれるほど辛い日々が続いたといいます。
さらに、最愛の父親を病で亡くし、自信を完全に失ってしまいました。

この経験をきっかけに、「今の医学では救えない患者を救う方法を見つけたい」という思いから、研究者の道へと進む決意をします。
しかし、日本に戻ると研究環境の違いに苦しみ、再び自信を失い、臨床医に戻ろうと考えた時期もあったそうです。


偶然がもたらした転機

臨床医に戻るために家を買おうとした矢先、不動産契約が不成立になるという偶然の出来事が起こります。
その結果、研究を続ける道を選び、6年後にiPS細胞の発見という大きな成果を得ました。

山中教授は、これらの出来事を「塞翁が馬」と語り
「特に一見よくないことが起こった。その時こそ、これはチャンスかもしれないと。そんな風に考えてもらいたい」とスピーチで強調しました。

「塞翁が馬」を生き方に活かす

この「塞翁が馬」の教えが私たちに伝えているのは、 目の前の出来事に一喜一憂せず、長期的な視点で物事を捉えることの大切さ です。

たとえ辛い出来事があっても、「これが次のチャンスに繋がるかもしれない」と思うだけで、少し心が軽くなるかもしれません。
逆に、良い出来事があった時も「これが全てではない」と冷静に受け止める。その姿勢が、人生を少し楽にしてくれるんだと学びました。

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