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Zen2.0 2022 セッションレビュー 〜DAY2 セッション#1〜

2022年9月11日 DAY-2 #1

アレクサンダー・ラズロさま・藤田 一照さま

登壇者のプロフィールは以下でご覧いただけます。
アレクサンダー・ラズロさまのプロフィール
藤田 一照さまのプロフィール

Day2最初のプログラムは、システム思考の探求者であり多文化システム科学者のアレクサンダーラズロさまが、拠点のブエノスアイレスからオンラインでご登壇。Zen2.0ではお馴染みの、曹洞宗僧侶の藤田 一照さまが建長寺から語りかけるトークセッション。タイトルは「恐怖を乗り越え、Interbeingの喜びへ〜自分が見たいシステムに自分がどうなるのか〜」です。

◇◇◇

世界の見方としてのシステム思考

「今、地球上で『人間である』というのはどういうことなのでしょう」
冒頭、ラズロさまのこんな問いかけでセッションがスタートしました。

「全てのものは内側でつながり、分離していない。そしてそこには、目には見えない関係性やパターンやフローが存在している。いわば、お互いにダンスをしているようなものなのです。しかし現代社会には、恐れ、そして恐れからくる分離が蔓延っていますね。インタービーイングの喜びには、どうすれば繋がっていくのでしょうか」ラズロさまはこのように続けます。

「仏教においては、システムという言葉は使わず「縁起」がそれにあたります」一照さまはこう語ります。
「単なる思想や哲学ではなく、生き方をガイドする指針のようなものと言えるでしょう。でも、これを実現しよう・実行しようとすると、自分の内側・外側にいろいろな邪魔が入ります。それゆえ、長い修行が必要になります」「システムは、いわばファンダメンタルな事実であると言えますが、大事なのは我々はそのシステムの内側にいるということ。外側ではないんですね。でも、内側にいるのにも関わらず、どうもうまく生ききれない。何かがこれを阻んでいるんですね」

私たちの幻想に過ぎない「分離」


「私たちは幻想を持っているんです」
一照さまの問いかけに、ラズロさまはこう応じます。
「日々の生活の中で、『自分とそれ以外』を分けて捉え、分離した存在として見做しがちですが、分離は私たちの幻想に過ぎません。システムという見地からは、分離しているものは何一つ無いんです。自然を見れば分かります、まさに生きたシステムですよね。」
「宇宙全体が生きたシステムなのです。進化も少しづつ進みますが、私たちも一緒に進み、変化しているのです。そして全てに相互関係性があり、変化しています。今ようやく、量子力学のレベルでこの理解が進みつつあります。つまりそのレベルにおいては、相互に情報を受け取り合い、一緒に変化しているのです。距離は関係ありません。このことは宇宙レベル・銀河レベルでも同じなのです」
「私たち人間のサイズは、宇宙と量子の中間ぐらいでしょうか。もちろん、ここでもその変化や相互関係性は同じなのですが、なぜかそのように振る舞えていません」

一照さまはこの指摘にこう応えます。
「人と人、国と国。なぜこのサイズだとインタービーイング性が感じられなくなるのか。表面的なパッチワークに留まらず、そろそろ根本・本質へ手をつけるべきタイミングだと感じます」
「このことは、古代の賢者がすでに洞察し、指摘しているものです。そして現在は、これらのことが科学的に実証されつつあると感じています」

これを受けてラズロさまは「まさに、量子力学から宇宙論まで、古代の叡智が同じことを説いているのです。二項対立ではなく、宇宙が多様性を持ちながらひとつの物語を編んでいる。まさにインタービーイングの物語であり、科学がそれを証明しつつある、とてもパワフルな時代なのです」と応えます。

蜂のダンスと、インタービーイングの物語

本来そこにあるシステムが、少しづつ見えてきているという点で同じ指摘をされたお二人のセッション。では、それをどのようにして自分に取り込んでいけば良いのか。ラズロさまはこう続けます。

「蜂の話をしましょう。蜂は、蜂蜜を求めて花畑へ行き、蜜のある花を探します。そのために蜂は何をするのか?花に耳を傾けるのです。蜜の準備ができている花はどれなのか、何かを聞いて嗅ぎ分けているのです。そう、私たちも同じように耳を傾けることが重要なのです」


これを受けて一照さまはあるエピソードを紹介します。
「良寛は、『花は無心に咲き、蝶は無心に止まる』という歌を残しています。ここで言う無心は何の作意もなく、と言うことですが、自然にハーモニーが生まれることの感動を捉えていますね。それを捉えた感性が素晴らしいと思うのですが、これは科学とは異なる鑑賞法であるとも言えます。この両者のバランスが大事だと思うのですが、私たちはそれを欠いてしまっているのかも知れません」
「パラダイムシフトに通じるような理論を発見した人は、ある種のエッセイストであり、文学的な感性・直感性が高い人が多いように感じます。英語で表現するのであればSentience、でしょうか。システムを作りながらも巻き込まれる。能動でありかつ受動。主であり客。こういった営みで命が紡がれる世界観を芸術的に捉え、フレッシュなまま「歌う」「感動する」「踊る」「書く」・・・安易に頭で納得しようとせずに、この感性が先に立つことが大切ですね」

私たちは「聖なるダンス」を踊っている

私たちは、頭の中で考えている『思考』から、どのように『全てと一緒に存在している』という状態になれるのでしょうか。
ラズロさまはこう語ります。
「蜂のようになるのです。全ての存在に耳を傾け、感じ、五感とは異なるセンサーでもっと直感を使うのです。大事なのは、それは内側から起こるということ。それが周りと繋がるのです。内側から出てくるものを遮らずに耳を傾ける。これが能力としてのSentienceだと言えます」
「立ち止まり、耳を傾け、自信のある状態に入りましょう。『信頼=Confidence』には、宇宙を信頼するという意味もあります。また同時に、自分の中にある『弱さ』を宇宙と共有しましょう。フォーカスしすぎ・集中しすぎではなく、オープンになりましょう。これがSentienceに繋がります」さらにこう続けます。
「蜂は、ただ感じているのです。それは言葉や思考では理解できないものなのです。それが蜂の中から湧き起こり、花と繋がっていくのです」

「私たちは『聖なるダンス』を踊っているのです。ダンスが私たちを動かしてくれるのであって、自分から考えて動くのではないのです。ここがとても大切なところで、人類は今それを学ばなくてはいけないのです」


これを受けて一照さまは、「坐禅」についてこう応えます。
「坐禅はいわば『止まるダンス』であり、『Re-Connectするダンス』だと言えますね。ついつい、姿勢や呼吸をチェックして理想に近づけようとコントロールしようとしてしまいますが、それでは何も変わりがありません。坐禅をしている本人は頑張っているのですが、その態度では従来通り、Old Fashonです。私自身がそのスタイルでいた時に、ティクナット・ハン老師との出会いで気づくことができました」

「あるべき正しい態度とは、『The Less we do , The Deeper we see .』ではないでしょうか。やることが少なくなることで見えてくるものがあります。エゴで動くのをやめ、引き算で考える。結局坐禅も、無駄な力を抜くことで大地の力を得られ、良い姿勢になっていくのです」

結びに、ラズロさまはこうお話されました。
「宇宙には説明できないパターンがあるのです。言葉では言い表せないし、言葉にすると失われます。そこを感じ取るには、神聖さや畏敬の念・喜びといった感情が大切です。VUCAの時代にどう生きていけばいいのかは、私たちの誰も分かりません。ただ、科学も仏教も、情緒やSentienceを忘れているように思えます。そちらに進んでいく必要がありますね」

◇◇◇

見えないけれど、古来から確実にそこにある何か。耳を傾けてその声を聞いて、身を委ねてダンスを踊る。これからの時代のあり様に、重要な示唆を受け取ることができたセッションでした。

2023.1.6(text by Joe Okouchi)

<Zen2.0 公式Webサイト>