名探偵ボディビルディング(毎週ショートショートnote)
華奢な男が好きだ。
憂いを帯びた目に黒髪がかかり、時折メガネをクイッとあげながら文学の話をするような。
不健康なギタリストもいい。咥え煙草でギターを爪弾く、弦をすべる長い指がセクシーな。
彼がボディビルディングにハマって以来、胸肉やゆで卵ばかりを食べ、好きだったカフェ巡りもしなくなった。ゴツゴツした腹筋に頭をのせてみても、知らない人のようで落ち着かない。
記念日やイベントもジムと大会で潰れ、彼はどんどん私を見なくなっていった。
私、彼のどこが好きだったんだっけ。
彼は今日も長い時間鏡に向かって、ポーズを決め続けている。私は灰色の脳細胞で彼を好きになった理由を思い出そうとする。
美味しそうにご飯を食べたところ、
目が合うとにっと笑ったところ、
怖い夢をみた私の頭を、眠るまでずっと撫でてくれたところ。
私の視線に気づいた彼が、「どう?だいぶ筋肉ついたでしょ」と鏡越しに言ったので、「私、華奢な男が好きなんだ」と告げ、部屋をでた。
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