自己帰属感(身体所有感) 研究まとめ(ラバーハンドイリュージョン応用編)
前回の記事では、ラバーハンドイリュージョンとはどういった現象なのかについて解説しました。今回は、ラバーハンドイリュージョンを応用して、不思議なVR体験を作り出した事例を紹介します。
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幽体離脱
Lenggenhagerらは、実験参加者にメガネ型ディスプレイをつけ、それに実験参加者自身の背中の映像を見せました[1]。そして、実験参加者の背中を棒で撫でます。すると、実験参加者は本当に目の前に自分がいるように感じることが分かっています。ちなみに、このように体全体が自分のものであるように感じることをフルボディ錯覚といいます。
小人・巨人体験
van der Hoortらは、sense of ownershipを感じるオブジェクトの大きさによって、空間のサイズ感が変化することを明らかにしました[2]。下半身の人形をミニチュアサイズ・巨大サイズの2種類用意し、実験参加者はヘッドマウントディスプレイ(HMD)を被ってその人形を見ます。そして、実験者が実験参加者の足と人形の足を棒で撫でます。そのあとにカメラの前で箱が提示すると、ミニチュアサイズの人形だと箱が大きく、巨大サイズの人形だと箱が小さく感じることが分かりました。
自分が傷ついたように感じる
ラバーハンドイリュージョンの研究では、ラバーハンドに起こった出来事がまるで自分の手に起こっているように感じる現象が報告されています。
Armelらは傷のついたラバーハンドを用意しました[3]。そして実験参加者の不快度をラバーハンドイリュージョンあり条件となし条件で比べました。その結果、ラバーハンドイリュージョンあり条件の方が不快度が高かったことが分かっています。また他の研究で、ラバーハンドに注射器を刺した実験をしました。この実験もラバーハンドイリュージョンあり条件の方が不快度が高いと報告しています[4]。
これは「偽物(他人)の手が傷ついてる」という感覚から、「自分の体が傷ついている」という感覚に変わっていったからだと考えられます。
透明人間体験
今まで紹介した研究では、「偽物の〇〇」というのが存在していました。じゃあ、それが見えない場合はどうなるのか?
「ラバーハンドなし」でラバーハンド実験をした研究があります[5]。本物の手を撫でると、同時にまるで手があるかのようにブラシを動かします。すると、何もないはずなのに実験参加者は「そこに自分の手がある」ように感じたといいます。
またフルボディ錯覚を応用した透明人間実験もあります[6]。実験参加者はメガネ型ディスプレイをつけて、カメラの映像を見ます。カメラは実験参加者の目線と同じくらいの位置にあり、下に向いています。実験者は、実験参加者の腹を撫でると同時に、カメラから見て腹の位置でブラシを動かします。そのあとにカメラから見て腹の位置をナイフで刺すような仕草をします。するとまるで自分が刺されたかのような嫌悪感を感じることが分かりました。
van der Hoortらは、先ほど紹介した小人・巨人体験の実験を人形を用意しないで行いました[7]。その結果、実験参加者は目の前に小さい(大きい)目に見えない身体があるように錯覚しました。つまり、自分が透明人間であるように感じたのです。
温度錯覚
ラバーハンドイリュージョンを舌に応用した研究では、偽物の舌にsense of ownershipを感じた状態でレーザーを当てると、実験参加者は本物の舌が暖かく感じたと報告しています[8]。また金谷らの研究では、本物の手に常温のプラスティックキューブをのせると同時にラバーハンドに氷を乗せました[9]。すると自分の手には常温のプラスティックが触れているにも関わらず、実験参加者はそれが冷たく感じたといいます。
参考文献
[1] Lenggenhager, B., Tadi, T., Metzinger, T., and Blanke, O. (2007). Video ergo sum: manipulating bodily self-consciousness. Science 317, 1096–1099. doi: 10.1126/science.1143439
[2] Van Der Hoort, B., Guterstam, A., & Ehrsson, H. H. (2011). Being Barbie: the size of one’s own body determines the perceived size of the world. PLoS One,6, e20195.
[3] Armel, K. C., and Ramachandran, V. S. (2003). Projecting sensations to external objects: evidence from skin conductance response. Proc. R. Soc. B Lond. Biol. Sci. 270, 1499–1506. doi: 10.1098/rspb.2003.2364
[4] Braun, N., Emkes, R., Thorne, J. D., and Debener, S. (2016). Embodied neurofeedback with an anthropomorphic robotic hand. Sci. Rep. 6:37696. doi: 10.1038/srep37696
[5] Guterstam A, Gentile G, Ehrsson HH (2013) The invisible hand illusion: multisensory integration leads to the embodiment of a discrete volume of empty space. J Cogn Neurosci 25:1078–1099, doi:10.1162/jocn_a_00393, pmid:23574539.
[6] A. Guterstam, Z. Abdulkarim, H. H. Ehrsson. (2015). Illusory ownership of an invisible body reduces autonomic and subjective social anxiety responses, Scientific reports, vol. 5, no. 9831.
[7] Van Der Hoort, B., & Ehrsson, H. H. (2016). Illusions of having small or large invisible bodies influence visual perception of object size. Scientific Reports, 6, 34530.
[8] Michel, C., Velasco, C., Salgado-Montejo, A., and Spence, C. (2014). The Butcher’s tongue illusion. Perception 43, 818–824. doi: 10.1068/p7733
[9] S. Kanaya, Y. Matsushima, K. Yokosawa(2012). Does seeing ice really feel cold? Visual-thermal interaction under an illusory body-ownership PLoS One, 7 (11) , p. e47293