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5歳児の回想〜オムツからの卒業
卒業。それは人生の節目のひとつを示す重大な出来事である。
僕にも経験がある。それは、かつての忌まわしき記憶。オムツからの卒業である。
「卒業証書の授与を行います」
あの時、僕はどこかからの声を聞いたのだ。
しかし、さほど気にはならなかった。卒業という響きに浮かれていたのかもしれない。
「ーー、壇上にお願いします」
奴はゆっくりと登っていた。しかし、僕は不覚にも奴の姿に気がつかなかった。
卒業証書という甘い響きとオムツへの自惚れが事態の把握を遅れさせたのだ。
卒業。それは、お漏らしから脱すること。それに尽きるのだ。にもかかわらず……。
「卒業おめでとう。卒業証書を授与するよ」
やがて、その時が訪れた。今なら思い出せる。
奴は笑っていた。笑っていたのだ。
しかし、僕は感傷に浸っていた。
オムツへの感謝とパンツへの喜び。
僕は、胸が熱くなった記憶がある。
「卒業証書を授与するよ」
再び奴が声を発する。
もし、僕がこの時点で声に気づいたら、まだ間に合ったかもしれない。
しかし、僕はオムツ時代の終わりを噛み締め、涙を流していたのだ。
「授与するよーー」
今思えば、この時点で既に口調が怪しい。
しかし、感謝の念が僕の思考を遠ざけたのだ。
母親や教師たちへの感謝。
オムツへの感謝。
その気持ちが、心に溢れていたのだ。
やがて、時は訪れた。
今、僕は思う。
あの時、奴の目を見てありがとう、と。
ありがとう、と伝えておけば、あのようなことにはならなかったはずだと。
「授与…授与…」
声が大きく聞こえたのだ。僕は、ここでやっと異変を察知する。
しかし、僕は前に進もうとしていた。
卒業。それは、未来への一歩を踏み出すこと。
充実した人生を歩む礎となるのだから。
「じゅーーーーーよぉーーーーー!!」
僕は声と同時に湿度を感じた。
幾度となく感じた感覚。
僕は、すぐに事態を把握した。
「パパ、パンツ、かーえーてぇー!!」
そして、僕はパンツ時代を開始した。
忌まわしい記憶と共に。