掌編版『書けなくなったラブレター』
「あなたのことが大好きだった」
私は右手にペンを持ち、言葉を綴る。
好きな気持ちを伝えたかった。
でも、勇気が出なくて手紙にしようと決めた。
本人の目の前で想いを告げられない、こんな臆病な私の想いを筆に乗せて。
筆を進めて言葉を綴る。
そんな最中にある事に気がついた。
「本当に好きなのかな?」
あなたへと向けていた想いへの疑問。
私はなぜ、あなたのことを好きになったのだろう。
「なんでだろう」
あなたと2人で過ごした時を思い出す。
あの頃は楽しかったな。
それでも、何故か違和感に引っかかる。
うーん、うーんと唸って考えた。
「あぁ、そういうことか」
あなたと2人で過ごした私。
楽しいと心を躍らせているそんな私。
そんな私の状態が好きだった。
「なんだ、そうか」
あなたに向けてた筈の淡い想いは、純粋な恋心なんかではなかったようだ。あなたのことが愛しいとか、恋しいとかではなく。単なる自己愛だったんだ。
書きたかったラブレター。
あなたへ向けた想いの手紙は書けなくなった。
そんな手紙は眠らせましょう。
宛名も書かずに封筒へとしまう。
一言、お礼を添えて。
「ありがとう、気づけたよ」
恋だと思った私の心は、形を成すことなく消えていった。私の恋はいつ始まるのかな。
そんなことを思いながら部屋から出た私。
宛先不明のラブレターは引き出しへ。