あんたとあたいの死ぬ時わかるまで
歌がうまくなりたいな、とふと思った。
私が思う歌のうまさは、メロディを間違えないことやビブラートを綺麗にかませることではない。
酒を飲んでる奴を泣かせられること、である。
前職では飲み会が多くて、しょっちゅう上司や後輩と飲み歩いていた。中でも、もっとも楽しい酒を飲ませてくれる上司がいたのだが、彼は麦焼酎を3杯飲むと、決まってカラオケに行きたがる。が、決して自分からは言い出さない。
「どうするよ?時間もあんまりないもんなあ~」
等としらじらしい顔で言いながら、行きつけのカラオケボックスのほうに目をやるのだ。
その視線を感じ取った私がすかさず「いや~僕いきたいな~30分でいいっすから~~」と茶番に乗っかったところで「それなら仕方ないな~いくか~~~~」と嬉しそうに千鳥足でヒョコヒョコ歩き出す可愛い上司だった。
その上司は一応音楽をやっていたらしく、いろんな曲を知っている。そのわりに、なぜか好きなバンドや歌手が私と丸被りだったりするので、私は彼とカラオケにいくことがとても楽しかった。
当然30分で終わるはずなどなく、延長延長で終電を逃すこともあった。
そんな彼は、酒にやけたダミ声で一発目に必ずある歌を歌う。
玉置浩二とかMISIAみたいにとんでもなく歌がうまいわけではないのだが、酔っ払った私には、その上司が魂を込めて歌う姿がなぜか胸にきた。かすれたおっさんの熱唱でなぜか毎回涙ぐんでしまうのだった。
転職してしまった今、その上司と飲みに行くことはもうないし、歌声を聴くこともなくなってしまったが、その歌だけはずっとずっと好きだ。
酒を飲みながらその歌を聴いていると涙ぐんでしまうのは、今も昔も変わらない。
なぜかそんなことを、日が変わる直前に思い出した。
私も誰かにとっての、そんな歌が歌えるといいなあ。
お休みなさい。