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【創作BL小説】箱庭の僕ら 12話

【光は、いまだ心の箱庭に閉じ込められている】

夏休み、寮は基本的に閉まるけど、俺はあいつと顔を合わせたくなかったから実家には帰らず、寮の部屋でひとり過ごしていた。

体力は、食事を調達しにコンビニに行けるくらいには回復していた。

エアコンの効いている室内で、1日中寝ていた。いくら寝ても寝たりなかった。起きていると、あいつに襲われた時のことを思い出すから、医者から処方された安定剤を飲んで日がな一日コンコンと寝ていた。

たまに起きると、絵を描いたり、作品を作ったりした。
実家から出たら、今まで内に閉じ込めていたドロドロした思いが次々と溢れ出てきて、あいつに対する怒りや復讐心で気が狂いそうになっていた。

起きている時に俺は夢中になれるものを持っていて、少なくともラッキーだったと思う。

それでも、過去にあいつにされたことを思い出すと、奇声や叫び声を上げたりした。「俺大丈夫なん?」と右斜め上から、もう一人の自分が冷めた目で俯瞰していた。

寮に人が居なくて良かった。ごく少数の事情があって帰るところのない生徒だけが残っているので、俺の声が聞こえたとしても、気にするやつはいなかったと思う。

この時描いた絵や詩は、俺の怒りが随所に滲み出ていて、どうしても前みたいに明るく愉快な絵が描けなくなった。
デジタルでは書かず、絵の具でスケッチブックに書く。暗い色を乱暴に塗り重ねる。時に気が付くと涙が流れている。

時間があると、ひたすら絵を描き殴り、文章を書いた。とても気力を要する作業で、ひとしきり集中すると、その後は電池が切れたようにベッドに横になり、長い間眠った。

あの日もそんなふうに過ごして、夕方に寝てしまった。起きたら周りは暗くて、夜7時過ぎか、朝から何も口にしていない事に気付いて、コンビニに買い出しに出かけた。

自分だけ何か薄い膜に覆われているような、外界と隔てられてるような奇妙な感覚を持ちながらも、
「腹が減るようになったのは、進歩だな」
とぼんやり考えながら歩いていた。

コンビニからの帰り、街灯が等間隔で並ぶ少し暗い住宅地を歩いていると、街灯の影に誰かが佇んでこっちを見ているのが目に入った。

そのシーンを見た途端、急に俺の頭の中で、ある記憶が爆発した。
あのクリスマスの夜、あいつが逃げる俺を追いかけてきて、街灯の下から急に出てきた時の恐怖の記憶がよみがえり、俺の体全体が激しく震えだした。

暑いのに歯がガチガチと鳴り、呼吸がハァハァと荒くなり、息切れがするのに、喉が締まってうまく息が吸えない。

目眩がして道路にひざまずいたら、さっきの街灯の下にいた人が様子を見ながら寄ってきて「大丈夫ですか?」と聞いてきた。スマホを手に持った若い男性だった。

この人はあいつじゃない、わかってる!わかっているのに何でこんなに怖いんだ!

その人は、
「救急車呼びましょうか?」
といってくれたが、俺の様子を見て、
「過呼吸だね。大丈夫、ゆっくり呼吸して。ゆっくり、ゆっくり、そう上手。そのまま続けて。」
そう言って背中をさすってくれた。目からは涙、鼻からは鼻水、口元からはヨダレがたれて、手足の先がしびれて、今にも死にそうな感覚に俺は恐怖した。
「怖がらなくて大丈夫、少し時間がたてば落ち着くから。そのままゆっくり、吐く時間を長くして」
「そう、吸ったら少し息を止めて。はい、ゆっくり吐き出して・・・・」
俺は必死に言われたことについていく。背中に触れた手のひらの体温や、低く澄んだ声が次第に俺を安心させた。

しばらくすると、呼吸が整い、落ち着いてきた。10分程度だったであろうが、果てしなく長い時間に感じられた。

その人はハンカチを取り出し、顔から出たあらゆる水分でぐちゃぐちゃになっている俺の顔を拭いてくれた。

「あ、あ、ありがとうございます。・・・・・・・すみません、あ、あなたが父に見えたもので・・・・」
と言ってから”しまった”と思ったけど、特にその人は驚く様子も無く、
「そうか、驚かしてごめんね。君の家は近く?早く帰って横になった方がいい」
と言った。
「俺は、そこの高校の学生寮に・・・・・」
「わかった、すぐ近くだね。送っていくよ。」
と言って、俺の腕を支えてくれて寮まで送ってくれた。

「夏休みなのに、寮は開いているんだね。」
「食事は出ないんですけど、ここで過ごすことは出来るんです。」
「そっか、多分、過呼吸だから心配ないよ。どこかかかりつけある?」
「はい、一応」
「じゃ、主治医の先生に話してみるといいと思う。お大事にね!」
と言って帰ろうとしたその人を、俺は呼び止めて、
「ハンカチも汚しちゃったし、いつか返します。連絡先だけ教えてくれますか?」
というと、その人は胸ポケットから名刺入れを取り出し一枚俺に差し出すと、
「ハンカチはあげるよ。僕、こういうものだから、怪しいもんじゃないから安心して!」
と俺に渡すと、手を挙げて玄関から出て行った。
確かに、こんな汚ね~ハンカチ、洗っても返せねぇよな・・・・俺は苦笑した。



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