へっぽこぴーりーまん書紀〜2社目編 新潟編vol.2
分析係の仕事
早速ボクは分析係の仕事に入る。
分析係の仕事は、単調な作業の繰り返しだった。
クレーム品の分析。
・魔法瓶の保温効力を確かめるため、熱湯を入れて熱の逃げを確認する。
・計測機を使い、穴の空いている箇所がないか確認する。
・水の漏れがないか振って確認する。
全ての検査業務はマニュアルに沿って淡々と行われる。
新入りのボクはベテラン派遣社員 鈴木の指導を受けることになった。
特に計測機を使った検査は難しく、何度も同じことを聞いてしまい、鈴木に冷たくあしらわれた。
工場気質というか、言葉をうまく操れる人はいなかった。
ぶっきらぼうで、男女関係なく見て覚えろ。自分で調べろ。の職場気質があった。
新潟県外から来たボクは異星人(よそ者)扱いで、口数少なく話しかけてくれることはほぼない。
「単身赴任なんですか?」「どのへんに住んでるんですか?」
こんな会話さえ発生せず、とてつもない孤独感に襲われた。
職場も地元ネタの会話が主体で、何を話しているのかよくわからない。全くコミュニケーションが取れなかった。
かって営業を経験したことのある、係長の可部だけが温かく目線を下げて話してくれた。しかし、可部も6月での退職が決まっており不安しかなかった。
営業とは全く別の職場に放り込まれた。
正直に言うと、すぐに辞めたくなった。
決められたリズム
・毎日決まった時間に出社する。
・決められた検査業務を淡々と行う。
・会話もなしに、昼食の時間を迎える。
・与えられる餌のように、仕出し弁当を食べる。
・午後の業務も淡々と。検査結果をデータベースに淡々と打ち込む。
・定時になり、業務が完了。
・真っ直ぐに単身赴任先の家に帰る。
こんな毎日が続く。
決められたリズム。
驚いたのは、食堂で給食(仕出し弁当)を食べるのだが目立った会話が無いことだった。
古参の社員は決められた場所に座り、世間話をしながら弁当を食べる。
しかし、その他の男性社員は黙々と食べて引き上げる。
(東京だったら、もう少し会話があったよなー…)
(つまらないなぁ…)
平静を装っていたが、心は半べそをかいていた。
一気に5歳くらい歳をとった気分になった。
同時に思ったこと
同時に思ったこととしては、営業の仕事の裏側でこんな人たちの毎日の仕事があったのか。ということ。
ルーチンで淡々と仕事をこなす。
会話も少なく、地元民同士で村社会を作る。
自分の会社は、都会の会社だとそれまで思っていたが、新潟から見てみると完全な地場の工場気質だった。
この人たちに取ってみると仕事でなく、作業。会社でなく寄合・組合みたいな感覚なのかもしれないなぁと思った。
組織の矛盾を感じたし、「風通しの良い組織にします。新潟の壁を取っ払います」と言ったことがいかに難しいか。
内心実感していた。
ルーチン作業なので、何を成果とするか。PRのしようがない。
いかに営業が、裁量のある仕事だったのか実感した。
淡々と流れていく日々。
二階の休憩室から、水田を見渡す。
底なしに寂しい気分になった。
弥彦山
近くに、弥彦山という山があった。
標高634mで東京スカイツリーの高さと同じというキャッチフレーズで、看板が出ていた。
晴れた休日。一人で登った。
新潟には「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉があり、休日が晴れに恵まれることは当たり前ではなかった。
弥彦山からの、景色は綺麗だった。思えば遠くに来たもんだ。
こんな綺麗な景色。感想を言い合える人がそばにいないことが寂しかった。
結局、綺麗な景色も、痛み辛さの思いも思いを共有することができなければ、味わいが薄くなるものだと実感した。
景色に見惚れて、昼から夕方まで1人弥彦山に滞在した。
夕暮れ時。海に沈むオレンジの夕日を見た。
一人で佇むボクの手前に若いカップルが居た。シルエットがきれいで撮った一枚だ。
素直に「あの頃に戻りたいなぁ」
と思った。叶うはずもないが…。
単身赴任。コミュニケーションの取れない職場。しがらみから逃れたいなと思った。
何より、誰かに思いを話したかった。
今までのどの職場より難しい気がした。
Not at all
そこに立ってわかることばかりだった。
神様は試練を与えてくれるよな。
そう思った。
これまでにないくらい寂しさを感じていた。
(→次回に続きます)