シュガー&レモンなカイロの休日
前:
・大量の白砂糖(少なくもワンカップ)
・1/8のレモン汁(またはアップルサイダービネガー)
・1/8湯
さて、これは何のレシピでしょう?
答えは最後に!
カイロでは何処にも出かけずに、だらだらと家で過ごすことも何度もあった。
そんな日はいつもこんな感じだった-
しつこく鳴り続ける間違い電話またはいたずら電話で目が覚める。
服を着ると、家を出て牛乳屋から牛乳とヨーグルトを買い、そしてその辺で寝ている新聞売りの少年を起こし、新聞を買う。
本当は勉強のために、アラビア語新聞を読むべきなのだろうが、つい楽をしたくて英語版の方を買ってしまう...
でも何語で書かれていようが、検閲が煩いのでプロパガンダ的な記事ばかりだった。
明らかにテロ事件でも、絶対にそれがテロだったとは認めず、「精神病院を脱走した患者の単独犯罪」と書かれ、
また胸を張って厳しくムバラク政権を批判する記事など、皆無だった。
家に戻ると、牛乳は二回沸騰させる。一回しか沸騰させないと、必ずお腹を壊すからだ。
テレビを付けてみる。
ニュース番組が映るが、ただ新聞を音読している声が流れるだけ。記者が事故現場に駆けつけ、現場から現状を報告するとか全然ない。
チャンネルを変える。
すると、どこかで開催された昔のオリンピックの再放送がやっている。(旬なオリンピックの生放送などなかった。高すぎる放送権を買えないから)
またまたチャンネルを変える。
オマー・シャリフやオンム・カルスーム(エジプトの美空ひばり)の歌の映像(全て白黒)が垂れ流しされている。
乱暴にまたチャンネルをいじる。
古いB級ドタバタコメディー(何十回目かぐらいの再放送)が流れる。
ここでため息、テレビを消す。
(↑Arabesque: The Days of Hassan Al-Noa'many 1994年に放送されていた人気ドラマ。)
電話が鳴る。
また間違い電話かいたずら電話か、うーんとおもいながら受話器を取る。
外国人考古学者の友人の場合は、他の発掘チームの悪口ばかりで、私と親しくしていたエジプト人女友達の場合は、
「結婚なんかしたくない、仕事でバリバリ生きたい!」
という鼻息の荒い話が多かった。
留学中の日本人の場合は、公共バスの中でたくさんのノミやなんきん虫に刺された話、
歯医者に虫歯治療に行き、逆に歯を破壊された話、眼科クリニックで眼科医が手を洗わずコンタクトレンズを触った話とか、
アパートの番人に泥棒に入られた話、エジプト人大家(または大家の息子)に合鍵で家に侵入され、SONYのCDウォークマンだとかvictorのビデオカメラや日本製のゲーム機を盗まれた話だとか。
エジプト人と結婚している日本人の女友達の場合は、エジプトに嫁いでいるならではの話ばかりで、
例えば
「〇〇さんはギザの病院で帝王切開の出産をしたんだけど、麻酔が効いたのは、赤ん坊が出た後だったんだって。地獄の苦しみだったらしいよ、なんで日本で出産しなかったのかしらねぇ~」。
とか
「ここだけの話、日本人の○○子さんのエジプト人のご主人、実は他にも奥さんが二人もいるんですって」
「(エジプト人の)夫に貯金という概念がなく、困る。うちは夫婦で観光業をやっているでしょ、
だから湾岸戦争の時も二人して収入ゼロになって、妻の私のへそくりでなんとか生き延びたのに、
あの時のことをもう忘れたのか、夫はお金をあるだけ浪費しちゃう。困った」
などなど..
電話を切るともう午後2時。
エジプトではお昼ご飯の時間だ。歩いてすぐの角まで行き、ケバブの炭火焼きをしている少年に、1ポンド(当時約30円)を渡しテイクアウト。
家に戻ると、買ったばかりのホカホカのケバブ串刺しをかじりながら、またテレビを付ける。エジプトのホームドラマの放送だ。
どんなストーリーだろう、と真剣に見てみる。
ある新婚夫婦がいる。仲がいいけれど、子宝に恵まれない。
そこで、周囲の強引な説得で、夫は第二夫人をもらうことになる。妻(第一夫人)も
「いいのよ、私は妊娠しないから、あなた、どうぞ二番目の奥さんを貰いなさいな」とにっこり。
が、第二夫人との結婚式当日、夫はやっぱり、と思い直し式をボイコットし、第一夫人の元へ戻り、
「子供ができなくてもいいんだ、二人だけでいよう」と手を取り合い、夫婦は見つめ合い涙。で、エンドロール。
...
さっぱり理解できない、目がぱちぱち。エジプト人のオバチャンたちは、このストーリーで感動するのか?
子供が欲しいけどなかなかできないなら、夫婦共に病院へ検査しに行こうよ、まずはそこじゃないか?
なぜそこをスキップして、すぐに二番目の嫁を、となる? そもそも精子に問題あるかもしれないじゃないか...
また、たいていのエジプトドラマは"悲恋"ものばかりだった。
身分違いだとか、親に反対されたとかで一緒になれない男女が、えんえんと嘆き悲しむ。こんな話ばかりだ。でも厚化粧の太った女優の涙顔になんぞ、感情移入できない。
テレビコマーシャルはマギーのチキンコンスメや洗剤アリエルだとか、オマー・シャリフが出る"便器"のクレオパトラ社(日本のTOTO)、ファーストフード、ペプシ、コーラばかり。
例えばシャネル、ディオール、外車(日本車含)といった、思わずため息がこぼれるような、豪華な高額商品のコマーシャルは一回も見た記憶がない。
スーザン・ムバラク(大統領夫人)が若い夫婦対象に、コンドーム使用を一生懸命推奨するコマーシャルなどもよく流れていた。
エジプトはとくに農村部では子だくさんばかりで、国全体の人口爆発が問題になっていた。
ルーマニア大統領夫人のエレナ・チャウシェスクは国民の女性に、ひとり最低五人は産め、と強要していたので真逆だ。
余談だが、スーザン・ムバラクは国連食糧農業機関の親善大使を務めており、子供文明創造センターをヘリオポリス(カイロ)に設立、熱心に孤児院訪問などもしていた。
スーザンの母親はイギリス人なので、彼女はハーフだ。だから、両国との友好の架け橋のような親善大使の役目を果たしていた。
またアメリカン大学カイロを出であり、アメリカ的なモダンな考えの女性だった。よって決して飾り物のファーストレディではなく、とても国際的で現代的で、そして活動的だった。
それらを評価され、少なくとも国民に嫌われていないと私は思っていた。それなのに、まさかの2011年のエジプト革命時の追放劇...
(↑スーザン・ムバラク(右))
さて、気付くと、夕方。エジプト人が動き出す時間帯だ。電話がかかってくる回数も一気に増える。
つまり間違い電話やいたずら電話も増える。ま、もともとエジプトでは、電話の混線は日常茶飯事だったけど。
夜9時。エジプトの晩御飯の時間帯。料理が面倒くさい時は、ピザハットやKFCのデリバリーに電話で注文。
デリバリーは楽だけども、外国人の私が玄関を開けると足元を見られ、高額チップを請求されるのがネック。
だから二人のエジ子さんと同居していた時は、デリバリーの対応はいつも彼女たちにお願いしていた。
就寝時間前になると、
そろそろやろうか?と白砂糖、レモンを用意。これはジュースでもお菓子のレシピでもない。
脱毛ワックスのレシピだ。
一般的にシュガーワックスと呼ばれており、水に大量の白砂糖を入れ、焦がさないように煮込む。
キャラメル状になったらレモン汁(またはアップルサイダービネガー)を加え、冷ます。
そして肌の上にびちゃびちゃ塗っていき、固まったら一気にはがす。
剃刀で脱毛するより皮膚(毛穴)に優しいのだが、はがすとなかなか痛い、思わず悲鳴が出る。
このシュガーワックスは、同居のエジ子さんたちともお互い塗りたくり合った。余ったワックス(砂糖&レモン汁の塊)は、みんなで食べたなあ。
ところで、エジプトといおうか、アラブでは女性はムダ毛すね毛は一切あってはならず、みんな全身ツルツルにしている。腕脚はもとより、脇の下、そしてデリケートな部位も。
ある時、カイロのアメリカ大使館(とにかく巨大で敷地も広い)でハロウィンパーティーがあった。(子供しか仮装していなかった)
何故か当時ちょいちょい会っていた、顔の広いエジプト人俳優に連れられ、私もそこに参加していたのだが、
この街にはこんなにアメリカ人が住んでいるのか、とびっくりするほどの大勢のアメリカ人が集まっていた。
しかし、そこにいたある若いアメリカ人女性は脱毛処理をしていなかった。半袖Tシャツと短パンからのぞく腕や脚に"毛"が生えている。
すると、私と一緒にいたエジプト人俳優と彼のエジプト人男友達が、彼女に面と向かい
「なぜ腕毛や脚毛を剃らないのか。とても汚くて醜い」と平気で言い放った。
そのアメリカ人女性はあんぐり。隣に立っていた私も驚いた。
アメリカン大使館のイベントで、主催側のアメリカ人である女性に、大勢の前で腕毛と脚毛を咎めたのだ。一生忘れられない、驚き桃の木山椒の木の出来事だった!
(言われたアメリカ人女性は、ぽかんとして彼らを睨みつけて去って行きました。)
(↑この敷地全てがカイロのアメリカ大使館。)
ところで前にも書いたが、砂糖はアラビア語でスッカル。女性を美人!と褒める時に
エンティ スッカル! (=あなたは砂糖(美人)!という。
蜂蜜はアラビア語でアーサル、脂肪はエシタ。これらもエンティ アーサル(エシタ)!とやはり「いい女だねー」という称賛単語。
女性の美を褒めるのが、砂糖とか蜂蜜、脂肪という単語なのが、さすがお国柄だ。日本語の「柳腰」のような褒め言葉だなんて、エジプトではありえませんな。
砂糖とレモン汁の脱毛ワックスでスベスベの肌になると、(砂が混ざった黄色いお湯が出る!)シャワーを浴びてベッドへ。
でも深い眠りに入る頃には、またもや間違い電話やいたずら電話のベルの音で起こされ、決して熟睡には入れないのだった...
これが何もしない、家でだらだら過ごすカイロの一日だった。
おしまい
追伸
日本でも劇場上映されたレバノン映画の『Sukkar Banat』
(※sukkarの意味は砂糖または美人、Banatはdaughtersの意味)(2007年)
映画のオープニングは、ヒロインたちがシュガーワックスを作っているシーンから始まり、やはり最後はみんなでワックスを食べている! 笑
歌もいいので、よければオープニングの1,2分だけでも.(英語字幕オンにもできます)↓
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