20010125 磁力線の交点
電線に電流を流すとその周りに磁界が発生する$${^{*1}}$$。これを発見したのはエルステッドというデンマークの物理学者であった。磁界の強さの単位の名称としてOe(エルステッドと読む)があるが、最近はSI単位系へ世界的に流れているため、CGS電磁単位系であるOeは少なくとも日本では殆ど使われなくなりだしている。SI単位系ではA/m。
デンマークではOerstedは「エールステズ$${^{*2}}$$」と読むらしい。そういえばアンデルセンもアンナセン$${^{*3}}$$のようだ。
電線の周りに磁界が発生することが分かったのが1820年である。たった180年前である。それまでは磁気と電気は全く別物と考えられていたわけである。今でも別物であるが、現象としては非常に密接な関係があることは大抵の人が知っている。
一本の無限に長い電線に電流を流すとその周りには同心円状の磁界が出来る$${^{*4}}$$。小さな磁針を電線のそばに持ってくると電流の方向に向かって見て右回り沿って針が動く。右回りの回転方向にN極が向く。この同心円状の磁界を発見したのはフランスの物理学者アンペール$${^{*5}}$$であった。電流の単位のアンペアは彼の名にちなむ。
磁針はそれ自体が磁石になっているのでその周りには磁界が発生している。電線によって発生している磁界の中に別の磁界が発生している磁針を持っていけば全体の磁界の状態が変わるので、電線と磁針それぞれが力を受けると考えてもいいだろう。電線は固定してあり磁針は小さいものを持ってくるので磁針の針だけが動く。
それならば磁針の代わりにもう一本電線を持ってきて平行にして電流をそれぞれに流したらどうなるだろうか。どちらの電線にも磁界が発生するので電線はお互いに力を受け合う。同じ方向に電流が流れていれば引き合うし、反対の方向であれば反発しあう。SI単位系における電流の単位$${^{*6}}$$はこの現象を利用している。
この二本の平行の電線の周りの磁界の様子はどうなっているか。どちらの電線にも同じ方向で同じ大きさの電流が流れている場合を考える。磁界の様子は小さな磁針をそばに持ってくれば分かる。ある地点の磁界の様子を知りたければ小さな磁針をその場所に持ってきて針が向く方向を調べる。針が向く方向をつないでいけば磁力線を描くことができる。
一本の電線の場合は磁力線は電線を中心とした円になる。磁界に変化がなければある地点の磁針は磁力線の方向を向き続ける。従って磁力線は絶対に交わらない。交わった部分が出来れば磁針がどちらを向いていいか分からなくなるからである。
さて二本の電線の周りに出来る磁力線の様子はレムニスケート$${^{*7}}$$と呼ばれる曲線になる。この曲線を見ると二本の電線の丁度真ん中、図で言えば原点で交差しているではないか。磁界は絶対交わらない筈なのに。
しかしいいのである。この点はそれぞれの電線から発生した磁界の向きが丁度反対向きになってお互いに打ち消しあっている点なので、磁界の強さが0になっているのである。だから小さな磁針は全く力を受けないのでどちらを向いていてもよいのである。
*1 第2章 磁場の作り方
*2 エールステズ:教育の現場での発見
*3 アンデルセン|日本大百科全書(ニッポニカ)|小学館
*4 右と左という概念を地球外生命との交信で伝達することは可能なのでしょうか?絶対的な左右の非対称というものはあるのでしょうか?【現代物理】
*5 アンペール(Ampere,Andre Marie)
*6 20000808 無限長の電線
*7 レムニスケート