20090205 塗仏
塗仏(ぬりぼとけ)と言う妖怪がいる。「いる」と言う表現は変だ。現代科学の解釈では、妖怪はいない筈である。「考えられていた」でいいか。水木大先生$${^{*1}}$$の妖怪には登場しない。「塗仏」というのは妖怪の名前としてはかなり違和感がある。入道$${^{*2}}$$の妖怪は沢山いるが、「仏」そのものが妖怪だと言うのは、畏れ多いと言うか大胆と言うか、昔の人にとって抵抗はなかったのだろうか。
多田克己編・解説の「妖怪図巻」に塗仏の解説がある。「塗」は死者の霊を封印すること、「仏」は仏陀そのものではなく死者を指すのではないかと言うことだ。白川静$${^{*3}}$$によれば塗り込めることはまじないの一つの方法として用いられたらしい。
ここに塗仏の絵が四つある。一つは「化物づくし」に掲載されている。これが制作された年代は不明で、作者も不明である。巻末には鳥羽僧正$${^{*4}}$$真筆とあるらしい。これ$${^{*5}}$$が「化物づくし」に掲載されている塗仏の絵である。二つ目は「百怪図巻」である。制作年代は1737年、作者は佐脇嵩之。これが百怪図巻の塗仏$${^{*6}}$$である。三つ目は「化物絵巻」に出てくる。これの制作年代は1800年代前半と考えられている。作者は不明。これが化物絵巻の塗仏$${^{*7}}$$である。最後は「画図百鬼夜行」で、年代は1776年、作者は鳥山石燕$${^{*8}}$$。これが石燕の塗仏$${^{*9}}$$だ。
体が黒いのは何故か。何かを塗って黒くなっているから塗仏なのか。黒い仏像$${^{*10}}$$からの連想か。黒化した即身仏$${^{*11}}$$を見た際の驚きが妖怪創作につながったのか。
塗仏を並べてみると面白い$${^{*12}}$$。元々作られた絵を手本にして描いているのだが、それぞれの作者が独自の解釈をして少しずつ変化している。特に真ん中の塗仏は背中に巨大な魚の尾びれが付いてしまっている。おそらく本来は前に踏み出した時、白い腰巻きから覗く残りの片方の足を書いたつもりが、次の作者は何を思ったか、それを魚の尻尾にしてしまったようだ。水死体$${^{*13}}$$の化物か何か連想した作者の思いが込められているという解説があるが、単に元の絵を見てそう見えたので書いたのだろう。まさに尾ひれを付けてしまった$${^{*14}}$$のである。
さらに河鍋暁斎$${^{*15}}$$は「塗仏」の仏を仏そのものと解して$${^{*16}}$$、こんな塗仏$${^{*17}}$$にしてしまっている。
*1 水木しげるの妖怪ワールド
*2 20030720 加牟波理入道(2)
*3 白川静の世界
*4 美の巨人たち
*5 nuribotoke_1.jpg
*6 nuribotoke_2.jpg
*7 nuribotoke_3.jpg
*8 20040208 七福神
*9 nuribotoke_4.jpg
*10 日本文化継承研究会 -大和しうるわし- 弥勒菩薩
*11 Mummies in Northern Japan
*12 nuribotoke_123.jpg
*13 20060828 土左衛門
*14 おひれ 【尾 ▼ 鰭】の意味 国語辞典 - goo辞書
*15 古河生まれの天才絵師 河鍋暁斎の生涯
*16 Nuri-botoke ~ 塗仏、塗佛 (ぬりぼとけ) ~ part of The Obakemono Project: An Online Encylopedia of Y?kai and Bakemono
*17 Image ~ Nuri-botoke 塗佛