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20040821 180の根拠

 国産の乗用車の最高速度は180km/h以下に抑えられている。市販された状態ではこれ以上の速度が出ない。これは平地での話で、下り坂では180km/h以上出せる場合もある。

 速度が無制限に出せると危険だということで、自動車製造会社が速度を出し過ぎないような仕組み$${^{*1}}$$を自動車に取り付けている。それぞれの会社が自主的にやっていることなので制限する速度はまちまちになってもよさそうだが、どの自動車も180km/hが上限になっている。最高速度の差が出てくれば、それだけでその自動車の売り上げに大きな差が出てきてしまう。民間企業が売り上げを犠牲にしてまで自主規制を守り通すのは難しい。だから各社一律になっている。

 日本の道路での最高速度は100km/h$${^{*2}}$$なのに、なぜ「180km/h」が自主規制の値になったのであろうか。

 調べてみたら$${^{*3}}$$「180km/h」という値の根拠にこんなのがあった。この値が決められた当時の高速道路の最大勾配は5%で、この勾配の上り坂を法定の最高速度100km/hで走行できる自動車は、平地では「180km/h」の速度が出せるから、というのである。

 「180km/hが出せるから、上限をこの値にしましょう」というのは何とも訳の分からない自主規制である。平地だろうが坂道だろうが、法律では最高速度100km/hだから自主規制も「100km/h」でいいはずである。どうもこの根拠は疑わしい。

 そもそも「180km/h」という具体的な値を出すための条件が足りない。「100km/h」と「5%の勾配」だけでは「180km/h」は出てこない。肝心な自動車の重さが抜けている。重ければ重いほど上り坂では力が要る。上り坂で100km/hで走行するには、更に100km/hでの空気抵抗$${^{*4}}$$に打ち勝たなければならない。

 一方、平地では自重によって後ろに引っ張られることはない。その分、力に余裕ができる。この余裕の力の分だけ100km/hから更に加速していくことになる。速度が増していくと空気抵抗も増えていく。自動車のタイヤと道路との摩擦に打ち勝って走る力と空気抵抗とが釣り合った時に速度が一定の値になる。これが「180km/hの根拠」なのだ。100km/hからどれだけ加速されるかを知るには、余裕の力つまり自動車の重さが判らないと計算できない。更に自動車の形によって空気抵抗が変わってくる$${^{*5}}$$。スポーツカーとトラックとでは全く違う。これも考慮しないと計算できない。

 計算する条件を変えれば160km/hになったり200km/hにもなったりするはずである。つまり「180km/h」という値の必然性は「坂道100km/h走行」からは出てこない。「180km/h」という値が初めからあって、その理由付けに坂道の計算を考えたのではないか。それならばこの値の根拠は一体何か。

*1 リミッター解除用アダプターキット(AT車専用) | MONITOR モニター | 永井電子機器株式会社
*2 道路交通法施行令 第4章の2 高速自動車国道等における自動車の交通方法等の特例
*3 Google 検索: 自動車 180km 速度 根拠 勾配
*4 ISUZU:車両の走行抵抗
*5 ScLaBo ●空気抵抗とCd値やCL値について

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