#20 拝啓、愛する娯楽たちへ
6歳の頃、映画館にいた私は劇場版プリキュアと笑の大学の二つのポスターの前に立っていた。
母が「アニメばっかりでつまんないよ。別の見てみない?」と言うので、私はプリキュアの隣に貼ってあった笑の大学のポスターを指した。
「じゃあこの、五郎ちゃんのやつ」
それが私にとっての娯楽との強烈な出会いだった。
映画ではあるが、浅草軽演劇の時代を描く映画である。
検閲官で笑わない役所広司さん演じる向坂が軽演劇の劇場に迷い込むシーンで私も彼と同じ気持ちになった。ドカンドカン笑う観客たち、ステージ上では大の大人が楽しそうに走っている。私の最初の娯楽の認識は「大人が真剣に遊んでみんなを幸せにするもの」みたいな感じであり、今でも本質は間違ってないと思う。
終盤、生真面目な向坂が稲垣吾郎さん演じる椿一と読み合わせをはじめ、検閲の無機質な部屋がたちまち舞台となる。
大の大人が部屋を駆け回るシーンを見て、私の夢はあそこに行く事だとピンと来た。
16年後の今も、その夢に変わりはない。
「Save our space」と言う活動が熱を帯びている。
ライブ、演劇、イベントなどを生業とする娯楽業界が政府に補償を求める署名活動のことだ。(参考 https://www.j-cast.com/2020/03/31383386.html?p=all)
仕方のないことだが、私が憧れた人がひしめき合って笑う空間は今、悪でしかない。沢山の人間の健康を害する”場所”でしか無くなってしまった。
そしてこの自粛波はただでさえ不安定な”娯楽”という存在を、滅する勢いで追い詰め、いつまで続くか分からない。
3.11の時もそうであったが、国難に見舞われた時にまず糾弾の的になるのが、ただ生きるためには全く必要のない娯楽である。
これは随分昔から変わらず、世界大戦の時に厳しい制限をされた浅草軽演劇界もそれを裏付ける。
しかし根絶することなく、ARASHIがライブを行えばその度に会場周辺の経済が大きく動くほど人を魅了して離さない。
拝啓、愛する娯楽たちへ。
私も一致団結する。今までそうだったように、この国難と自粛も必ずや乗り越えよう。
3.11の時の自粛波の影響で財政難に陥り、潰れていった劇団が沢山あるという。
今回はより一層の数がそうなるかもしれない。
毎晩暗くなって、家族が寝静まると落ち込みが酷くてベッドから出られなくなる。
好きなお酒も飲む気がしなくて、3.11の時の精神状態に似ている。
どこまでも無力な人間の小ささを実感してしまう。
昨日ケラさんの以下のようなツイートを目にした。
真剣に遊んできた大人の信念は強固たるものがあるな。
私も賛同する。娯楽の危機の時、途端に個人の見栄とかが吹っ飛んで、ただ好きなものを命がけで守りたいという純粋な情熱が芽生えてくる。
娯楽の場所は決して凶悪ではない!
今公演を続行するのには確かに賛成できないけれど、だからと言って、”場所”に優劣があるからと言って、捨てないでよ…お願いだ…。
そう思うのが正直なところ。
「Drive in Theater Japan」のニュースを耳にした。
それが少しだけ私を明るくさせた。
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