【読書】『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』治部れんげ
【推しドラマが増えるジェンダー視点のドラマ論】
ジェンダー識者の治部さんが「愛の不時着」や「半沢直樹」など日米韓欧の人気ドラマをジェンダー視点で分析した一冊。
noteの読書感想投稿コンテスト「読書の秋2021」の課題図書の紹介文を全冊読んで手に取った『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』。
日米韓欧いろいろな国のドラマをジェンダー視点で見ると、国や文化を超えて共通する課題があることに気づかされます。さらに、比較視点を持つことで国や文化圏による「違い」が見えてくるのも面白いところ。
この本に書かれたジェンダー視点のポイントを押さえるだけで、ドラマはもちろん、エンタメ鑑賞がもっと面白くなりますよ。
『愛の不時着』はなぜヒットしたのか?
本作では、『愛の不時着』がヒットした理由は「性別役割分担の逆転」と「有毒な男性性のないヒーロー像」にあると分析しています。
ヒロインをヒーローが守るシーンと、ヒーローをヒロインが守るシーンが対等に登場する。また、従来は女性に課せられていた役割である無償ケア労働(=相手に尽くす行為)を男性であるリ・ジョンヒョク大尉がおこなう。
この性別役割逆転をあからさまには見せない表現のうまさが、本作の魅力であると述べています。
最近の日本のドラマでも、この傾向が見られるように感じます。例えば、現在放送中の水10ドラマ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」では、主人公の弱視の女の子・ユキコは障害を持っているが勝気な性格。その一方、ヤンキーの黒川は粗野に見えて真面目で一途、大好きなユキコのために尽くします。
障害がある女性だが自立している、男性性の強い不良だが無償ケア労働を惜しまない、というステレオタイプから脱却した人物像は、海外のドラマから影響を受けているのかもしれません。
人気ドラマ22作の「推し語り」に共感
本作では計22のドラマが登場しますが、治部さんの語り口からドラマ愛がこぼれ出ており、ドラマ評論としても秀逸。ジェンダー論という形を変えた推し語りは、友人とドラマ考察を語り合っているかのようにスラスラと読めます。
など、思わず納得してしまう分析が盛りだくさん。推しドラマを増やしたい人にもオススメの一冊です。
筆者もこの本をきっかけにカナダのドラマ「アウトブレイクー感染拡大ー」を観ました。世界に新型コロナウイルスが拡大するパンデミックの恐怖を描いた本作は、昨今のコロナ禍を予言したかのようなリアルなストーリー展開が面白く、かつ女性陣のプロ意識のかっこよさに一気見必至の作品でした。
ジェンダー視点で日本のお笑いを見てみたら
書籍を読んだあと、たまたまテレビでやっていた『ドラフトコント2021』を観ました。
人気男性芸人5名がキャプテンとなり、一緒にコントをやりたいと思う芸人をドラフト制で指名。できたチームでユニットコントを披露し、No.1を決定する番組です。
見どころのドラフトや各チームの個性あふれるコントはめちゃめちゃ面白く、実験的で楽しい番組でした。しかしこれをジェンダー視点で観ると、いくつか気になる点がありました。
ジェンダー的で気になったのが以下の3つ。
・女性キャプテン不在
・女性がドラフト下位で呼ばれる
・コントでの役柄がステレオタイプな女性像
まず、ドラフト候補芸人20名のうち4名が女性。チーム決めのドラフトでは、4名中3名がドラフト最終順まで残りました。
各チームのコントでは、腰元(身分の高い人の侍女)や男を引き連れた謎の女など、女性陣はステレオタイプな役柄を担当。セリフも少なく(大久保さんはほぼゼロ)、脇役扱いの印象を受けました。
そんな中、ジェンダー視点で好印象だったのがかまいたち山内。「ちゃんとツッコミができる人を最初に欲しかった」とドラフトではぼる塾・あんりを1位指名。
レコード会社のスカウトマンという男女関係ない役柄でコントに登場したあんりは、さらば青春の光・森田などの先輩芸人へツッコミを連発。コント前半の笑いを生み出す核となっていました。
芸人ドラフトとユニットコントから垣間見えた、お笑い界のジェンダー格差。治部さんの本を読まなければ、こんな気付きは得られなかったと思います。
わたしたちのエンタメ鑑賞を豊かにする1冊だと思います。気になった方はぜひ読んでみてくださいね。