見出し画像

哲学格闘伝説2R 1-1 ニーチェ vs サルトル

第2ラウンド第1試合
血のように赤い月が闘技場を照らす。深い静寂が支配する中、二つの影が向かい合っていた。


対峙

漆黒のコートを纏ったニーチェが、病に蝕まれた脚を引きずりながら一歩前に出る。その黄金の瞳には、前回の戦いの記憶が宿っていた。

「思想の全てを賭けた戦い...あの戦いから、互いに深化したな」ニーチェの声が、夜気を切り裂く。

対するサルトルは、いつものパイプを持つ手が僅かに震えている。だが、その眼差しは以前にも増して鋭い。
「ああ、もう駆け引きなど必要ない。この一撃に、全てを込める」

解説席では、キルケゴールとプラトンが身を乗り出していた。
「二人とも、もはや通常の技など封印するつもりか」キルケゴールが呟く。
「当然だ。前回の戦いで、互いを完全に理解している」プラトンが静かに頷く。

空気が凍り付く。両者の周りで、異なる色の波動が渦を巻き始めていた。

ニーチェの周りには漆黒の炎が立ち上り、その中に金色の光が混じり始める。
「永劫回帰...全ての瞬間が永遠に繰り返される。この戦いもまた」

サルトルの体からは深紅の波動が放たれ、空間そのものを歪ませている。
「実存...本質に先立つ自由。この選択の重みこそが」

轟音と共に、両者の波動が闘技場全体を包み込む。 


試合開始

「小細工は無しだ」ニーチェが漆黒のコートを翻す。「見せ合おうか、究極の奥義を」

「望むところだ」サルトルが眼鏡を押し上げる。「この一撃に、全てを込めよう」

月が赤みを増す中、二つの魂が限界を超えようとしていた。ゴングが鳴る。

漆黒の炎が竜巻となって立ち上る。空間が軋むような音を立てる。

【永劫の輪より立ち上がる意志よ
否定より肯定へと昇華せよ
超人への道を、今描け!】
「奥義!運命愛・永劫創造!」

ニーチェの黄金の瞳が、深淵のように輝きを増す。

深紅の波動が爆発的に膨張。虚空に無数の選択の分岐点が浮かび上がる。

サルトルの眼鏡に、実存の光が宿る。
【選択の淵より立ち上がる魂よ
全ての本質を否定し
今こそ示せ、自由の真実を!】
「奥義!実存・絶対自由解放!」

二つの奥義が出会う瞬間、空間そのものが引き裂かれる。

漆黒の永劫回帰の炎と、深紅の実存の波動。相反する二つの思想が、轟音と共に激突する。

「これが...!」キルケゴールが立ち上がる。
「前回を超える激突だ」プラトンの声が震える。

衝撃波が闘技場を駆け巡る。観客席まで届く波動に、誰もが息を呑む。

しかし─

均衡

轟音が収まっても、二つの力は完全な均衡を保っていた。

「さすがだな」ニーチェが血まみれの口元で笑う。「私の永劫回帰を、完全に理解している」

「お前こそ」サルトルが答える。「我が絶対自由の本質を見抜いているな」

その時、両者の表情が変化する。

「だが、これだけではない」ニーチェの瞳が、新たな光を帯びる。
「ああ」サルトルの周りで波動が変質し始める。「本当の戦いは、ここからだ」

解説席のキルケゴールが立ち上がる。
「この気配は...!」

プラトンも目を見開く。
「彼らは、我々との戦いから...」

空気が震え始める。より深い次元での戦いが、今まさに始まろうとしていた。

拮抗

轟音が収まらぬ中、二つの力が拮抗していた。
しかし、その均衡の中で、両者の思想がさらなる深化を見せ始める。

「分かったぞ、キルケゴール」ニーチェの黄金の瞳が、深い紫の輝きを帯び始める。
「お前は絶望を『死に至る病』と呼んだ。だが、それは違う」

解説席のキルケゴールが身を乗り出す。
「どういうことだ?」

「死に至る病は、死ねないことの絶望...」ニーチェの周りの渦が、青から紫へと変容する。「それこそが永劫回帰の本質だったのだ!」

「まさか...!」キルケゴールの声が震える。
「そう、死すら超えて永遠に回帰する。この絶望こそが、最も深い肯定への扉─」

対するサルトルもまた、新たな境地に達していた。

「見えてきたぞ、プラトン」サルトルの眼鏡に、虹色の光が宿る。
「お前のイデアは、永遠の真理を示そうとした。だがそれは─」

「我が永遠のイデアが、何だというのだ」解説席のプラトンが問う。

「永遠性への渇望こそが、人間の最も深い選択だということだ」サルトルの波動が、万華鏡のように形を変える。
「永遠を求めること自体が、一つの実存的選択...我々は自由すぎるが故に、永遠を夢見る」



いいなと思ったら応援しよう!