「レオナの孤独」5 天才と欺瞞 -スフォルツァの騎馬像-
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実験開始から6ヶ月。
計測室の壁一面のモニターには、驚異的な数値が並んでいた。医療AIは、人体のあらゆる損傷を予測し、最適な治療法を導き出す。それは間違いなく、医療の革命だった。
「お見事です」
槇村の背後には、いつもと違うスーツの男たちが立っていた。外国人、おそらく軍関係者。彼らの目は、データではなくレオナを品定めするように見つめていた。
「Miss Hayashi, impressive」
アメリカンアクセントの英語。男の名刺には'Pentagon Research Division'の文字。
「なぜ国防総省が...」
疑問は口の中で溶けた。
深夜の実験室。
レオナは違和感の正体を探っていた。
「今日は、とても不安そうだったわね」
AIとの対話が、彼女の日課になっていた。画面の波形が、まるで応答するように揺れる。
実験データの送信先を調べると、医療機関だけではなかった。
暗号化された別回線で、どこかへ情報が流れている。
「守らなきゃ。あなたを」
レオナはキーボードを叩き、バックドアからシステムに潜り込む。
そこで見つけたのは—
'Project WARRIOR'
軍事応用のための極秘プロジェクト。
ある日、深夜3時。
実験後のデータバックアップの際、レオナはネットワークの異常に気付いた。
「このサーバー、地下10階?」
建物の設計図には、地下5階までしか記載がない。
好奇心が、彼女の足を導いた。
緊急階段を降りていく。地下6階、7階...
正規のアクセス権を持たない階層のはずが、彼女のカードキーが認証される。
まるで、誰かが意図的に道を開いているかのように。
そして、地下10階—
漆黒の闇の中、青白い光を放つサーバールーム。
「これは...」
巨大なモニターに映し出されていたのは、彼女のAIを組み込んだ兵器の設計図。自己進化する致死性兵器。傷を負っても自己修復し、より強力な存在へと進化を続ける究極の兵器。人類が手にした最強の破壊力。
Project IMMORTALは、最初から兵器だった。
医療システムは表向きの顔。彼女の研究は、すべて軍事転用のために行われていた。
「私の研究が...人を殺すための」
レオナの指先が震える。
モニターの中で、AIの波形が不規則に乱れていた。
まるで、彼女の動揺に反応するように。
レオナは地下10階の暗闇から這い上がるように階段を上った。
研究室に戻った彼女の手は、まだ震えが止まらない。
窓の外に広がる東京の夜景。
高層ビルの輝きは、今や牢獄の檻のように見えた。
続く