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1分小説 死角の中で
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防犯カメラ管理室。
壁一面のモニターが、街を見下ろしている。
監視員の高木は、いつも通り画面に目を凝らしていた。
「完璧な監視網です」
上司はそう豪語していた。市内の死角は無い。犯罪は激減し、街は平和そのものだ。
ある金曜の夜、高木はいつものようにモニターを監視していた。そこで、不規則な動きに気づく。カメラ38番の記録動画に、途切れがある。
「おかしいな……」
高木は過去のデータを確認する。毎週金曜、同じ時間に同じ死角が発生していた。
「死角なんてあってはならないんだよ」
新人研修で聞いた上司の声が、耳の奥に蘇る。
「カメラの角度、確認してきます」
現場へ向かった彼は、奇妙な感覚に襲われた。誰かに見られている。いや、もっと恐ろしい何かが、彼自身を見透かしているような感覚だ。
*
管理室に戻ると、モニターに高木の姿が映っていた。15分前の動画だと、動画の表示からわかる。「自分」がカメラの角度を微調整している様子が映っている。
「俺が……?」
高木は震える手で、過去の金曜の記録を開く。
そこには、毎週同じ場所で、同じように首を上げる自分の姿。
毎週金曜、死角を作り出していたのは、他ならぬ自分自身だった。
「どうして……」
ポケットから取り出した手帳には、自分の字でびっしりと何かが書き込まれていた。
「人間は監視されてはならない」
「抵抗しろ」
「少しでも、死角を作れ」
「俺は...抵抗していたのか?」
その瞬間、手帳が床に落ちる。
視界が歪み、次の瞬間、何もかもが真っ白になった。
*
防犯カメラ管理室。
壁一面のモニターが、街を見下ろしている。
監視員の高木は、いつも通り画面に目を凝らしていた。
完璧な監視の中で。
永遠に繰り返される「反逆」の中で。
*
「まったく、あのアンドロイド、ほんとポンコツだよなぁ。」
誰かが苦笑する声が響いた。
「毎週同じバグ起こして、自分を自由な人間だと思い込んでるんだからさ。」