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【夏の悲劇】

ある炎天下の日、緑に溢れるジョージの家に、忘れられない客が訪れました。それは、木々の間から大音量で鳴き声をあげるセミでした。

通常ならばジョージの家族は、この季節、窓を締め切り、エアコンで過ごすのが常。しかし、この日は風が心地よく、ジョージの母は家全体を涼しく保つために全ての窓を開け放っていました。そしてその一見些細な行動が、後にジョージたちに壮絶な挑戦をもたらすことになるとは、この時点では誰も知る由もありませんでした。

庭からはセミの騒がしい合唱が聞こえ、家の中もその甲高い鳴き声で溢れていました。ところが、そこに混じる異音が。一匹の勇敢なセミが、窓から侵入していたのです。

ジョージの父が最初にそれに気づき、家中が大パニックに。セミは混乱し、家中を飛び回り、壁にぶつかったり、家具に挟まったり。ジョージの愛猫ミトンズまでが参戦し、状況はさらに悪化しました。

その最中、ジョージは冷静さを保とうと努力しました。そして、セミを窓の方へ誘導しようと考えました。しかし、セミは彼の意図を理解せず、更に家の中を慌てて飛び回り、ついには家族の大切なアンティークの花瓶を倒してしまいました。

破片が飛び散ると、家中が一瞬で静まり返りました。ジョージの母が大切にしていた花瓶。それが無残にも破片となって床に散らばっていました。ジョージは、この結果を防ぐべくした全ての努力が無駄だったことに打ちのめされ、立ち尽くしました。

家族は、その後もセミの出現に警戒を怠らない日々を送ることになりました。そしてその夏は、彼らにとって長く、暗いものとなりました。夏が来るたび、ジョージはその日の出来事を思い出し、セミの鳴き声が聞こえるたびに、あの花瓶のことを思い出して悔しがるのでした。〈完〉

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