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「ドイツの家族」
ベルリンに来て割とすぐに知り合いになったベルリナーとその父、そして兄。彼らには当時、本当に家族のように親身に相談に乗ってもらった。
Niebuhrstr.という通りの名前は元気の出るまじないのようなものだった。
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Niebuhrstr.
ここに流れ着いた私。何を受け取るために?
ここを仮の住まいとして暮らしてみる。
「家族のような」
「父のような」
「兄のような」
「恋人のような」「兄弟のような」
あ、そうか仮の姿だらけなんだ。虚像だ。これも一時的なゲームのようなものなのかなぁ、という考えは少し悲しい。でも、通りがかりの私にはそれだけのことなのかもしれない。
こんな家は見たことがない、というのが第一印象だった。
実際に誰がここに住んでいて、誰が訪問者なのか、それすら把握するのに時間を要した。とにかく人の出入りが激しいのだ。
アルトバウの天井から不思議なシルバーのクーゲルがぶら下がり、壁から巨大な、しかも真っ赤な猫の手が突き出ている部屋。窓際にどんと据えられたソファーから、これまた大きな(存在感のある)主人というよりは「父」がむくっと起き上がり私に向かって手を差し伸べた。「ハロー!」
彼は私のことをすでに知っていた。というのも、私たちは1度美術館でばったりと出くわしていたからだ。Pと私はその日そこでロシアのアンテナたちを眺めていたのだった。
「あれ?父さんだ」とPは言った。その「父」は「ハロー」と言ってにこにこしていた。なんだか久しぶりにホッとするようないい笑顔。
キャプテンのパフォーマンスを観るためにAktionsgalerieでPに初めて出会った時とまったく同じ笑顔だった。
こうして私はNiebuhrに流れ着いたのだ。
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