
ドイツ座の野外劇場
本来なら今年の3月は観劇やコンサートが目白押しだった。
ベルリンのシャウビューネで2本、ドイツオペラで1本、ライブハウスでコンサートといった具合に。
この月はたまたま誘われたり、娘とバレエを観に行く約束をしていたりとタイミングが重なったのだ。
しかし、蓋を開けてみるとコロナのパンデミックの知らせと共にベルリン市や各文化施設が迅速な対応に出たため、全てキャンセルになってしまった。3月初頭から段階的にキャンセルになっていったように記憶している。
それ以降、これまでの約3ヶ月間、美術館や博物館、劇場やコンサートホール、映画館とは無縁の日々を過ごした。もちろん、こんなことは生まれてこの方初めてである。
なければないでなんとかなるのだが、やはり自宅でNetflixやオンライン配信ばかり観ているのにも限界がある。
特にシアターは劇場内での演者と観客のやり取りや演出などの一体感があってこそだと思うので、映像だけではどうしても物足りなく感じてしまう。
もちろん配信で演劇が観られるだけでも感謝せねばいけないのだろうが、やはり生モノだよなぁ、という感じは否めない。
さて、そんな中、ベルリンのドイツ座が劇場前のスペースを使って野外での公演を行うらしいということを聞いた。
チケット購入のタイミングがかなり遅れたが、それでも何とか入手。
そして当日、なぜか緊張しながら劇場に向かった。写真でまばらに置かれた観客用のパイプ椅子や簡易な小舞台は見ていたのでそれほど驚きはなかったが、天気や環境にかなり左右される舞台装置である。
夕暮れの空や鳥の鳴き声、喧嘩する犬たちの鳴き声。
古代の人々もこんな風に外界と隔たれることなく野外劇場を楽しんだのだろうか。
今回の演目は「ペスト」。こんなところもドイツ座らしい気がした。
演者ひとり、真っ黒でシンプルな舞台装置。距離をとって陣を取るまばらな観客。小道具はこれまたやはり黒のパイプ椅子が10脚くらいと木でできた子供の椅子ひとつだ。
どんな気持ちで彼は演じ切ったのだろう。
70分ほどの舞台を見事にこなし、長い拍手を浴びていた。
ペスト菌は決して死ぬことも消滅することもないものであり、、、そしておそらくはいつか、人間に不幸と教訓をもたらすために、ペストが再びその鼠どもを呼びさまし、どこかの幸福な年に彼らを死なせに差し向ける日が来るであろうということを。
半分ほどしかカミュの「ペスト」は読めていないが、最後まで読んでおこうと思う。
野外劇場、やはりちょっと寒すぎた。
一体、いつになれば劇場でシアター体験ができるようになるのだろう。
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