つながる私アイ〜大阪中之島美術館
ネットワークが街(故郷)をつくる、という話を元町で聞く前に「つながる私(アイ)」という塩田千春さんの展覧会を大阪の中之島美術館へ観に行っていたことを思い出した。
その日は朝から何かとソワソワ落ち着かず、家にいたとしても何も手がつかないだろう、と気になっていた展覧会に思い切って行くことにしたのだ。10月10日、キリのいい日なので忘れないだろう。
塩田さんの作品には赤い糸が使われているものが多い。ベルリンのご自宅で2002年に撮影のアシスタントをさせてもらったときも赤い糸が部屋に張り巡らされていた記憶がある。撮影のために編み込まれたものだ。「赤い糸」と聞くと運命とか想い、みたいなものを連想するがどうだろう。そのあともベルリンのギャラリーで作品をいくつか観たことがある。とにかく毎回、その作品の持つ執念や想いの強さなんかに圧倒されてきた。
今回の展覧会も入り口手前で迎えられるように展示されていたのは真っ赤なドレスと天井から何本も垂れ下がる赤い糸だった。
しかし、中に足を踏み入れると突然の静寂。水滴が落ちる音と真っ白な糸。白の作品もあるのか、とその美しさに見惚れてしまった。赤い糸が白になるだけでこれだけ受ける印象が変わるのものなのか、と驚きを隠せなかった。
細部を見れば見るほど手作業で編み込まれた想い、のようなものに圧倒される。気の遠くなるようなとてつもなく根気のいる作業だ。
比較にはならないかもしれないが無数の糸を探るようにして忘れないように「記憶」を文字に起こす作業にもどこか通ずるものがあるのかもしれない。自分の中にある大切な記憶を忘れたくない、その一心で。
塩田千春さんはベルリンを拠点に国際的に活動をするアーティスト。出身は大阪である。そんな彼女のホームである大阪での個展で’Home’をテーマとした作品を展示したかったのだそうだ。他人事とは到底思えない’Home’というテーマの作品だった。
家族とのつながり、社会とのつながり、ニューロンのように記憶を司るもの
ホームとはどこにいてもいつも自分と繋がっている根本的なものなのかもしれない。なんだか自分の中の疑問に対する答え合わせに来ているかのような心境にさせられた。
くるくると回る大型インスタレーション。
コロナ禍のベルリンのギャラリーで一度見たことのあるメッセージ色の強い作品。一般からメッセージを募集してそれを織り込むというタイプの作品である。中でも下の写真のメッセージに釘付けになってしまった。
会いたい人に会える、というのはなんと幸せなことなのだろう、と毎回帰国するたびに痛いほど感じているからだろう。いくらネットが発達したところで、物理的な距離を埋めることはかなわないからだ。何かあってもすぐには会いにいけない、という現実をコロナ禍で痛いほど突きつけられた。
大阪近辺にいらっしゃる方にはぜひとも展覧会に足を運んでいただきたい次第です。