ベルクハイン 〜Morgen ist die Frage〜
ベルリンのテクノシーンといえばベルクハイン。2004年にオープンしてからそんな噂をたびたび耳にするようになった。
以前からロケーションとしては気になっていたベルクハインにようやく足を運んできた。並ばなければ入れない、運が悪ければ並んでも入れないクラブ、というのが面倒でこれまでは行く気にすらなれなかったのである。
今回はコロナ禍でクラブとしての運営が行えない中、ボロス財団と共同でアート作品の展示が行われた。もちろん初の試みだ。オンラインで前売りを買えば並ばずに中に入れるばかりか、ガイドツアーにも参加できるというわけだ。ただし写真撮影は不可。
Ostbahnhof、いわゆる東駅周辺にはまだまだガランとした空間がわずかに残されており、ベルクハインもそんな一角の少し奥まったところに位置している。
クロイツベルクとフリードリヒスハインの境目に位置していることから、ベルクハインという名前になったんだそうだ。
スターリン様式のファサードが遠くからでも目立つ。MORGEN IST DIE FRAGE「明日が問題だ」という横断幕が目に入る。
1995年にベルリンに来て、廃墟を利用したクラブを散々見てきた私にとって、ベルクハインの内部を見てもそれほど驚きがあったわけではない。
それでも、以前は火力発電所だった建物内のKesselhaus(ボイラー室)だったという巨大な空間を目にしたときは、やはりワクワクさせられた。クラブだった頃のベルクハインも見ておくべきだったかな、と軽く後悔したくらいだ。展示会場には音楽も流れており、サウンドシステムもかなり良い印象を受けた。
ベルリンではアートウィークなどのイベント時にこうした旧工場や発電所が利用されることが多かった。今でも恐らくそうなのだろう。テンペルホーフ空港跡などがその典型ではないかと思う。どちらかというと、昔から作品そのものよりもそういった普段は入れないロケーションが見たくてせっせと足を運んでいた。
無機質なコンクリートの壁や底抜けに高い天井、スチールの組み込まれた窓などが大型作品の展示にしっくりと馴染む。それでなくても、ドイツというかベルリンには冷たく無機質でミニマルな空間というのがよく似合う。テクノのサウンドにもそんな空間がぴったりなのだろう。
ガイドのダニエルさんは2年前からベルクハインで働くようになった。それが今年のコロナウイルスのパンデミック化でクラブ営業が不可能になってしまう。今回のようにアート展示作品のガイドをするのは彼にとっても初めてのこと。時折、懐かしそうに「ここはチルアウトの空間で…」とか「ぼくたちの仲間のアーティストであるWolfgang Tillmannsは音楽も作れば歌も歌うし、ここでパフォーマンスも行っていました。」などとクラブの思い出を語ってくれた。
あのベルクハインがすでに過去のものに?
そんな寂しさを感じさせるベルクハインのツアーだった。そう簡単には入れなかったテクノの殿堂が全ての人に門戸を開くということは、その存在をかけた最終手段に出たということなのだろう。