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伝えたい想いを演劇で 作家兼役者 田口 浩一郎さん

2021年、ZAFに初参加される作家兼役者の田口さん。
「劇団!王子の実験室」という劇団の創立メンバーだ。
劇団は1997年に旗揚げしたが、今では他のメンバーに運営を譲って作劇と役者に専念している。
劇団の座付き作家をしながら、フリーのシナリオライターとして活動していたことも。
逗子には2006年に移住してきた。
現在は会社勤めだが、少し前までフリーのシナリオライターだった。

演劇に出会ったのは高校生の頃。漫画を描きたかったので、まずは漫研に入部。
ところが、漫研が入っていた部室には四つの文化部が相乗りで押し込められており、
そのうちのひとつに演劇部があった。部室はベニヤのパーティションで仕切られており、
ちょくちょく演劇部に遊びに行っているうちに、いつの間にか入りびたるようになってしまった。
演劇部の稽古に参加してみると、自分に少しばかり演技の才能があることに気づいた。
漫画については、ストーリーはそこそこ描けるが、画才が中途半端。ストーリーを描ける強みを活かして、脚本の道のほうが自分には向いている
と思い始め……。そうなると、ますます演劇のほうが面白くなった。

90年代は小劇場ブームで、多くの小劇団が東京を中心に活躍していた。
自分もそのムーブメントに乗るべく、都内の大学に進学してすぐに演劇ユニットを旗揚げした。
それが1997年。以降、自分は「演劇人」だという認識を強く持っていた。

「演劇人」としての自覚はあったが、「アーティスト」と言われるとしっくり来なかった。

横浜市のレジデンスアーティストとなり、モノを書いて食べてられるようになったことで、それで少しは自分がアーティストなのかなと思うようになった。

気がつけばアート寄りの企画にばかり参加してきており、そろそろ認識を改めようと考えなくもない。

「劇団!王子の実験室」とは?

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王子の実験室はステージを設けない。
劇場ではなく、店舗などの通常のフロアを使用して公演を行う。
いわゆる演劇というより、パフォーマンスに近いのかもしれない。
ステージを設けない公演形態に移行したきっかけは、大学卒業前後に襲った
生活環境の大きな変化だった。
病気が理由で今までの活動の中心だった東京に行けなくなり、就活もままならない状況で
自分の好きな演劇を続けるにはどうしたらいいのかを考え続けていた。
そこで、演劇を作る上でエッセンシャルではない要素を剥ぎ取ることを決意。自分が演劇をできるようにかたちを変えることに着手した。
劇場にこだわらず、
音響や照明にこだわらず、
色々考えて取捨選択を繰り返し現在のかたちになってきた。
劇場で演劇をするよりもアーティストレジデンスで稽古・公演する方が活動しやすくお客様の反応もよいため現在のかたちで20年近く続けている。

逗子は演劇活動にちょうどいい

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田口さんは、逗子高校の卒業生で、逗子には在学当時から馴れ親しんでいた。
【高校の周りには遊ぶ場所もなく、若者にとってはあまり面白くもない環境だったが、今にして思えば愛着は沸いていたと思う。
ビーチからちょっと……というか、かなり離れていたけれど、
やはり海があったからかもしれない。】

生まれは浦賀。逗子との共通点は、ともに海が身近にあることくらい。
造船の町で、ビーチに面した逗子とは雰囲気はまったく違うが、
どんな形であれ、海の近くで暮らすのが好きなのは浦賀で育ったせいだろう。

観光地として鎌倉や葉山と比べれば、逗子は派手な見どころはない。
でも、そういった華やかな地域にも、少し足をのばせばアクセスできる便利な場所。
鎌倉・葉山だけでなく、電車に乗れば横浜や都心もそう遠くない。交通の結節点のイメージ。
逗子に移住する若者が増えているというけれど、そういうハブ的な感じが良いのかも。

【そう考えると、逗子は自分の活動に適う地域。
都心はメディアや役者・スタッフなどの人材が集まっており、文化的なリソースが豊富。
人口が多くて栄えているが、あらゆるものが飽和状態。
稽古に使える公共の施設は予約の奪い合い。地価も物価も高いので支出もかさむ。
スタジオや劇場を借りるにも、それなりの支出を覚悟しないといけない。
反対に、あまり都会から離れた場所を拠点にすると、文化的リソースから遠ざかる。
飽和状態に置かれるストレスはないが、集客には苦労するだろう。
そういう利益と不利益のバランスを考慮したとき、逗子は劇団の拠点を置くのに絶妙なイイ位置。】

逗子自体に際立ったリソースはないかもしれないが、都会にあるリソースにはアクセスしやすい。
都心に比べれば物価は安く、人口は程よく、劇団は活動しやすいのだ。
あらゆる点で、コストパフォーマンスの高い地域。

演劇は、誰もがアクセスしやすいアート活動

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画家や物書きになろうとすれば、やはり人並み以上の画力や筆力を要求されるだろう。
でも、演劇は使う能力がシンプルで、人間が日常生活で身につけてきた言葉や動きが基本。
やりたい人が、ともかくも皆スタート地点に立てるのがよい。
「伝えたい気持ち」があれば 誰でも始められるのだ。
田口さんは漫画家になりたかったそうだが、画力が伴わずに断念している。
演技なら少しは達者だったが、衆に抜きん出る自信はなかった。
ただ、アイデアだけは自信があった。

【私はあらゆることが中途半端で、身につけた技術のすべてが凡人の域を出ないと思っている。
でも、人より少しだけ達者なこともまた多い。
演劇は、そういう半端な技術をまとめて舞台の上に乗せて、束にして戦える。そういうことがしやすい分野なのだと思う。】

それなりに演技ができ、一流ではないが踊れて、楽器も弾ける。
そういう人は、演劇では得難い人材となる。
例えば、ピアノはプロ並みに弾けるが、演技がからっきしではピアニストの役はできない。
お芝居において肝心なのは「何を伝えたいか」だけ。
技術は拙くても、核になる発想が素晴らしければ人に強い印象を残せる可能性はある。
そして、そうした発想は、なにも芸を極めた人たちだけが考え付くものではなくて、
万人が持ち得るもの。だから、やろうと思えば誰でも演劇を始めることができるのだ。

今年の作品「皮の大地」とは?

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最近良く聞く、SDGs。
ではないけれど、日本を継続的に経営するにはどうすべきか?
……みたいなところから発想を広げ、それを演劇で表現。

【日本人て、端っことかギリギリの「キワ」のところが好きだなって、いつも思っていたので。
スーパーの精肉コーナーに並んだ、「切り落とし」商品たちのなんと豊かなバラエティ。
そういえば、日本列島って大陸に貼りついた皮みたいだな……と。
薄く広く末永く、この大いなる皮を経営していくにはどうしたらよいか。
そんなことを考察していく予定。】

「皮の大地」

会期:2021年10月31日(日)19:00~
会場:CINEMA AMIGO(シネマアミーゴ)
観劇料:1000円+ワンドリンク
要予約:oojinozikken@gmail.com

調和するアートが似合う街、逗子

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【逗子は穏やかな空気が流れる、「まろやかな町」だと思う。
あまり尖った作品は好まれないかな……などと感じることもある。
だが、観客の皆さんに、強い印象を残したい思いもまたあるのだ。
街と「調和」しつつ「抜きんでる」にはどうしたら良いか。
それを考えてゆきたい。】

インタビュアー/ライティング:井出川薫
撮影:本藤太郎

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