アートとは、感じるもの。そこにあるもの。きづくもの。 Kaléidoscope 北川一臣さん 金子幸さん
(※今回のインタビューを動画にまとめています。よろしければ、動画も合わせてご覧ください。)
音が色や味に感じる共感覚を持ち、音楽、自然の営みと光の現象、森羅万象から得るインスピレーションを元に、平面、立体、映像作品を制作するアーティスト金子さん。
生物や物理の働きから得た着想を用い、コンセプチュアルアート、インスタレーションアートへの表現を追究し
「世界というシステムへの畏怖。」という感性を軸としてアーティスト活動をする北川さん。
ふたりは、アートデュオKaléidoscopeを結成し、
2019年より活動を開始した。
結成から2年。ふたりにとっての2021年は初挑戦の年でもある。
逗子アートフェスティバル初出展。
そして初のインスタレーション作品の展示。
ふたりが考えるアートとは?アーティストとなったきっかけは?
話を聞いてみた。
アートと決別するための渡仏・・しかしそこで待っていたのは・・
金子さんがアーティストになったきっかけは、何か特別な出来事があったからではない。
物心がついた頃から作品を創っていた。特に絵を描いていた。
彼女は、1つの感覚刺激から複数の知覚が無意識に引き起こされる事により生じる。「共感覚」と呼ばれる感覚を持っている。
(※「共感覚」は個人差はあるものの、1つの感覚刺激から複数の知覚が無意識に引き起こされる事により生じること。金子さんの場合は音が色や味に感じる)
もともとは、白黒の線画や写実画を中心にモノクロな作品を制作していた。
大学で美術を専攻していた。しかし彼女は悩むことになる。
目の前にある物を忠実に再現する講義を受講するたびに彼女の心には
疑問が生まれた。
アートってなんだろう。。
私のオリジナリティって何だろう。
このままでいいのだろうか。
アートの才能がひょっとしてないのかもしれない。
悩み抜いた挙げ句日本の大学を中退した。
自分の個とアートに疑問を持った結果、己を見つめ直す為の原点回帰としてフランスへ渡った。
フランスを選んだ理由は、高校時代に出会ったフランス人交換留学生の友人と交流が続いていた事、その方を通して感じたフランスに於ける価値観の多様性とアート文化であった。
本場のアートと触れ合うことで
自分の才能の無さにきづかされ、
アートをあきらめることができる。
あきらめることができれば違う道を選ぶことができると感じた。
しかし、フランスへ渡って3年目。
ある人と出会うことで事態は急展開した。
【アートを辞めるな】
【共感覚は個性だよ。与えられた才能だよ。生かした方が良い】という言葉をかけてくれる人たちと出会うことになる。
そういった方々との出会い、多様な文化と価値観・個の違いを尊重し合えるパリという街の環境が自分の個と向き合うきっかけになった。
はっと気付かされた。彼女は思い出した。
高校2年生で出会ったフランス人交換留学生との出会いでその後の世界が広がったことを。
そしてアート活動を再開した。
フランスでは、ありとあらゆる美術作品を無料で観ることが出来た。
特に近代絵画の印象派による光の表現とフォービズムの色彩に感化された。
知覚と感情を重視した色彩表現に目覚める。現地で知ったプーランクとピアソラの音楽に感銘を受け、そのサウンドを色彩化したいと思い立った事をきっかけに「音楽描画」の表現へ。
2013年に帰国、都内を中心とした作品展示と共に音楽とペイントのライブパフォーマンス活動を本格化させた。
※フォービズムとは・・20世紀初頭の絵画運動の名称。ルネサンス以降の伝統である写実主義とは決別し、目に映る色彩ではなく、心が感じる色彩を表現した。
日本に戻ってきてからはアートユニットの結成や解散を経て、そして
北川さんと出会う。
伝統工芸の奥にあるもの・・・ハワイで目覚めた日本文化
北川さんは2006年に渡米。ハワイで留学生活を送った。
しかし異国の地で、興味を抱いたのは、日本の伝統文化であった。
なぜハワイで日本文化を?と思うかもしれないが、ハワイには親日家が多く彼らから日本独自の伝統の在り方を学んだ。そして北川さんの知的好奇心に火がつくことになった。
留学の合間に日本各地の工房を尋ね、職人達による手仕事、創作への思いと情熱を目の当たりにした。そして伝統工芸の奥にある、コンセプトやストーリーに感銘を受け、人に伝えたいと思った。
これをきっかけにインテリアへの関心が高まり、自身の理想となる空間創りの追究が始まった。
2012年20歳の時に帰国、そして起業する。
古き良き伝統を残し、新たなものを取り入れた進化を意味する「不易流行」を主軸に掲げた。日本伝統文化の再構築と拡散を目的とした会社を興すと共に、東銀座に稲荷寿司専門店の「白金や」をオープンさせた。
店の内・外装、調理、メニューの作案など、プロデュースの全てを自らが手掛け、歌舞伎役者への「おもたせ(差し入れ)」を中心に展開する。
2018年に代表を退く。
その後映像配信を目的とした映像制作会社に就職。映像制作・配信とデザインのスキルを吸収しつつ、
社内のスタジオ設備とインテリアを手掛ける。
そして、幼少期より興味を持っていた生物の習性と物理、昆虫の採取と観察、科学実験と工作に親しみ、日常から生まれた疑問や頭に浮かんだアイディアを様々な手法で具現化し、発明する事に喜びを見出していた。
その一方で日々、世界と生命の成り立ちへの探究心が深まるごとに増幅する生と死への消化しきれぬ葛藤を抱えていた。
表現の道が無いかなと考えていた時に、
金子さんと出会うことになる。
散らばっていたパズルが出会った瞬間、新しいアートが産まれる
表現の道を探していた北川さん。
絵画では表しきれない自身の感覚を、立体表現に込める様になり、より多角的な表現を追求していた金子さん。
ふたりの出会いは、異業種交流会。
金子さんの展示を観に行き北川さんは感銘を受けた。
アートは心の交流となるのだ。
アートから伝わった感覚を自分の感覚で話をする、アートが心の交流になるなと感じた。
そして美しさの中に込められた気持ちがあると感じた。
2019年にアーティストデュオ・カレイドスコープを結成。
アート表現のコンセプトを深め、
万華鏡(カレイドスコープ)の様に瞬間を無限に拡張する現象の様な表現を目指し、多角的な表現を追究することになった。
逗子アートフェスティバルとの出会い
ふたりのアトリエは相模原にある。
そのため逗子まで車で3時間。(2021年の大雨により、一部有料道路が使えないため下道で移動することもある)
電車でも2時間。
みんなでアートメンバーのワンハンドマジシャン・シリュウさんと繋がりがあり、逗子アートフェスティバル
について知ることになる。
4月に初めて逗子アートフェスティバルの会議に参加。
出展を決めた。
しかしながら、逗子には縁もゆかりもない。
自分たちの作品展示は、初めてのインスタレーション作品を考えていた。
そのため会場を探すのが苦労した。
しかし、地元の方たちも一緒になって会場を探してくれて7月に
に会場が決定した。
永田さんという方の小屋の倉庫で開催となった。
北川さんと金子さんは言う。
「逗子で作品展示できてよかったよねって、ふたりで話していたんです。飛び込んで話しても聞いてくれるし、人との関わりが好き。
詳しいことはわからないけど、よそものの私達に手厚くサポートしてくれたんです。本当に感謝しています」
2021年作品 知覚の境界について
今年はふたりにとって挑戦だ。
初めての逗子アートフェスティバル。
そしてインスタレーション作品の展示である。
展示作品は 知覚の境界。
北川さんがコンセプトをつくり、
骨組みをつくり、金子さんが肉付けをしていく。
ふたりの共同作業で作品が少しずつ出来上がっていく。
9月中旬から毎日のように、相模原から逗子へ通い作品作りを
始めた。
思えば2年前。
2次元から3次元の表現、大きな作品を創るために相模原でアトリエを借りた。
1年掛けてアトリエを稼働できるようにし、今に至った、
知覚の境界は
完成を深く掘り下げ、五感で認知されるまでの様子をグラデーションで表現。人が物を見たり、手にとったりすると、
一瞬でこれは○○だ。と認知する。しかしこの過程において
6つの感覚( 聴覚、触覚、嗅覚、味覚、視覚、筋覚)が
働くことで、一つの認知となる。
たとえば、りんごを手にとったとき、感覚の世界では
りんごの手触り、りんごに触れたときの音
りんごの味、りんごの匂い、りんごの色、りんごを持つための筋力。
このような感覚が私達の中ではたらき、りんごという情報を認知するのだ。
この感覚を感じること。目に見えない感覚の世界を感じることは心の
豊かさとなる。
6つの感覚をグラデーションで表現することにより、
あなた自身の感覚が持っている豊かさを呼び覚ましてもらいたい。
このような想いで作品を創り上げていくのだ。
作品について北川さんと金子さんに話を聞いてみた。
「皆が普段無意識に感じてるけど頭にあることを表現する。
あーわかるとなったら面白い!
あれってどう思った?このようなコミュニケーションが
観に来てくれた方の中から産まれたら嬉しい。
これってなに?こういうこと?
ぜひぜひお気軽に声掛けてください。
感じたままのことを伝えていただきたい。
感覚を共有し、そして広い感性がより広い表現に
つながっていくと思っています。」
会期・会場のご紹介
11:00-16:00@逗子市沼間4丁目11−22
10/ 23(土)24(日)25(月)29(金)30(土)31(日)
11/ 1(月)5(金)6(土)
多様性がすでにある街、逗子
相模原でアトリエを持つお二人に逗子市についてお話を聞いてみた。
「逗子で展示場所を探していた時に訪れた逗子海岸で
【からあげをトンビにかつあげ】という衝撃的な洗礼を受け驚愕をしたことがありました。
でもトンビ以外はとても優しく接して下さいました。
色々な方にとても手厚くサポートしてもらい感謝です。
逗子市って、典型的な日本の情緒に海外の風が通りますよね。
本当の意味での多様性がすでにある街だと思いました。
来年はここで展示してみたいな・・という場所も見つけたし
来年以降も出展できると嬉しいです」
最後に・・
アートとは誰もが感覚の中に持っている感じる過程もアートと感じた。
認知の過程を、可視化し、表現した 知覚の世界。
あなたの知覚の世界は何を感じ、何を想うのか。
もし友人や家族、パートナー展示会場を訪れたなら、展示会場で
想ったことを話し、共有してほしい。
人それぞれの価値観や見え方が異なることに気づく。
こういう考え方もあるのね。このひとは、こんな風に感じるのね。
アートは、気づき、認め合い、コミュニケーションを
生むためのツールの一つではないだろうか。
作品展示情報
開催 :2021年10月23日(土)、24日(日)、25日(月)、29日(金)、30日(土)、31日(日)、11月1日(月)、5日(金)、6日(土)
時間:11:00 - 16:00
開催地:知覚の境界 会場 (住宅街の為、近隣のご迷惑とならないよう、お静かに鑑賞ください。)
料金:無料
予約:不要
住所:逗子市沼間4−11−22
アクセス:JR東逗子駅より徒歩14分/京急バス 逗21 沼間公民館(バス)より徒歩5分
インタビュアー:小代有美
撮影:嶺隼樹