3つの即興
・我らの時代の箱舟
ある日、神様は世界を滅ぼすことにしました。しかし、生きとし生ける者すべてを殺すのは忍びないので、ある者にはこれから自分が大洪水を起こすことを予め告げておきました。そして、凄まじい規模の災害でほとんどの生物は死に絶えました。そんな中、大海原の中にぽっかりと浮かんでいる船が一隻おりました。
「……」
彼は自分の言葉を信じてくれる生き物たちと一緒でした。あらゆる生物のオス、メス、一匹ずつが船にはおりましたから、長い長い年月をかければ再び彼らが繁栄することも可能だろう、神様はそう考えておりました。
ところが、この船には人間は一人しかおりませんでした。「神様が大洪水を起こす」そんなことを口走ったが最後、狂人扱いされてしまうからです。そもそも、神様を深く信じている人間が現代でまともに扱ってもらえるはずもありません。結局、彼には点から見守ってくれる神様の他誰も味方がいなかったのです。独身時代には、ノアもまた独り身なのです。
一体、彼にとっては人類が滅ぶ前と滅んだ後、どんな違いがあったのでしょうか?
・温泉
もう何日間も家から出ることができない。玄関の扉も窓も、どういう訳か開かなくなってしまっている。けどまあ、食料があるからそれだけならまだいい。問題は、家から出られなくなったのと同じ時期に、リビングから温泉が湧いたことだ。
そりゃあ、これが平常時なら喜んで温泉を堪能したかもしれない。けど僕はいま監禁状態にあるのだ。一分後の自分の命運さえ分からない者が、呑気に温泉なんて入っていていいものだろうか?そもそも、どうしてこの温泉は現れたのだろう。
考えても仕方がない。とりあえず入ってみよう。ああ、いい湯だ。……まずいぞ、急に眠くなってきた。長い時間閉じ込められていたせいで、気が張っていたのだ……。うん…………。
「よくこの少年は生き残っていたな。こんな地震が起きたのに」
「どうにも、部屋の中に温泉が沸いたみたいだな。そのおかげで体温を保つことができたのが幸いしたのだろう」
「どうして温泉が沸いたんだ?」
「ブドリがいないからさ」
・詩
私は女の子が好きだ。女の子の声が好きだ。
……待て、それなら男でも女みたいな声を出せればいいのではないか……?
……私は女の子が好きだ。男の娘も、好きかもしれない。
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