見出し画像

耳で聞いたあの歌

毎日あなたのために歌っていました 
あの歌を
あなたと待ち合わせをしてた あの時から
あの歌を

あなたを待っているのか 歌を歌いたいのかわからなくなるくらい あの歌を歌いました

思い出 重いです
肩にガタがきています
思い出 重いです
目の奥が見えないくせに痛いです
思い出 重いです
偏頭痛が変です

未来が耳打ちする
こうやって喋っている間にも、
未来が入り込んで、
もうすでにさっきまでの自分と置き変わっている
さっき食べたトマトとかお肉とかアップルパイとか

毎分毎秒初めまして
果てしない細胞分裂を繰り返しながら
いつしか 知らない何者かに生まれ変わる
全て変わりきってしまったら
あなたは見つけてくれますか?
たとえあなたの知っている私じゃなくなっても
あの歌だけは変わらずに あなたの耳に届けたい

毎日あなたのために歌っていました 
あの歌を
あなたと待ち合わせをしてた あの時から あの歌を

あなたも私も実は何もない 世界も宇宙も
宇宙は本当にあるの?見たことがないよ
デジタル画面の光の点滅
その中の暗闇でしか見たことないよ
どこまでいっても「〜らしい」という事しかない
すべては幻かもしれないけど 
この世界には確かなものがある 
今ここにいるってこと

また会おうと約束する前に 
私たちは今ここで会えている
いつか死んだ私の声で
また会おうと約束する前に 
私たちは今ここで会えている
数万年前のあなたの声で
また会おうと約束する前に 
私たちは今ここで会えている
声がこの体を駆け抜けます






※この詩は森田真生 著 「僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回 (集英社文芸単行本) 」を読んでの感想です。面白かった!絵本「アリになった数学者」も〜