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変な人 (44)葬儀場、ひそひそ話の、おばば。

 そのばあさんの大きなひそひそ声は、シーンと静まり返る式場に響き渡った。

 私のずいぶん年上の友人が84歳でお亡くなりになり、その通夜に出席させていただいた。
 参列者はご家族のほか、当人の年齢相応に80代の男女を中心とした多くの方々。
 式は神式で、お経もなく、神主が儀式を粛々と進めていくものだった。

神式のお葬式。粛々と進められる。

 神式でも、仏式のお焼香にあたる儀式が存在する。
 玉串たまぐしといわれる、さかき紙垂しでの付いたものを、祭壇に進み出て1人1人捧げていくのだ。

玉串

 その間も仏式のようにお経があげられることもなく、場内はシーンと静まり返る。
 その中を2人ずつ席から立って進み出て、玉串を捧げていく。
 他の人は席に座り、その儀式を静かに見守りながら自分の順番を待っている。
 その玉串の儀式が始まって10分ほどしたころ。
 私の斜め後ろに座るばあさんが、退屈したのだろうか、今まさに玉串を捧げようとしている人のことをひそひそと語りだしたのだった。
「あ、あの人ほら、タツシさんの弟さんの息子じゃない? 顔、そっくりでしょ!」
 ばあさんたちは、ひそひそ話のつもりであったのだろう。
 しかし、話す側も、聞く側も耳が遠い。
 2人のひそひそ話は、シーンと静まり返った会場の隅々まで聞こえてしまうほどのものだった。
 ばあさんは、そんなことには気づいていない。
 玉串を持って粛々と進み出る人をネタに、大きなひそひそ声が続く。
「あれが弟さんよ、ほら髪が薄いの、○○さんとそっくりじゃない」
「あの人誰かしら、ああ、きっとあれ、妹の旦那。八王子で土建屋さんやってたのよね」
 静かな会場に響き渡る、大きなひそひそ声によるプロフィール紹介。
 それは確実に当の本人にも届いている。
 厳粛に玉串を持って進み出る本人の背中に浴びせられる、勝手な個人情報の開示。
 多くの人の前で、「薄い」「元八王子の土建屋」とは。
 たまらない気持であっただろう。
 しかし、こっちだってたまらない。
 決して笑ってはいけない。それだけに、笑いたくてパンパンである。
 毎年、大晦日のTV番組『笑ってはいけない』を観ては大爆笑していたが、まさか自分が当事者になるとは思わなかった。
 腹筋痛い。
 ご冥福をお祈りいたします。


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