変な人 (15)新宿御苑のヌンチャク携帯男
真正面から、いきなり変だった。
それは、とても奇妙なアクセサリに見えた。
新宿御苑のまだ古い佇まいを残す商店街を、知り合いの事務所に向かって歩いていたときのこと。
商店街の端の小さな交差点にその男は立っていた。
だれかを待っている、そんな感じだった。
身長180センチほど。ややを通りこし、ずいぶんと太ったお身体。
小さな目が、出っ張ったオデコと頬の間に埋もれるように配置されている。
縦縞スーツの着こなしが、そこはかとなくだらしない。
男は交差点の端に立ち、落ち着かない様子で左右を見渡している。どちらかからやってくる待ち人を、少しでも早く発見しようといったところか。
そんな男が身体の正面をこちらに向けたときだった。
男の首の両脇から、ヒモに結ばれた何かがぶら下がっている。
ん?
それは、間違いなくスマホだった。スマホが首の両脇からそれぞれ1台ずつ、胸の前にぶら下がっているのだ。
おお! 変な人じゃないか。
私は心の中で感嘆の声をあげた。しかし、あまり関わりたくない感じの人物である。
そのため、あくまで「おお!」の感情は表情に出さず、やや伏せ目がちに男の斜め後ろに回りこみ、いかにもお店から出てくる人待ち風で観察状態に入ったのだった。知り合いの事務所に行く要件など、この際お構いナシだ。
スマホは、それぞれがストラップ付きホルダーに入れられ、首の後ろでそのストラップの先が結ばれていた。
つまりブルース・リーが敵をやっつけたあとの、あの首にかけたヌンチャクのようにぶら下がっているのだ。
なるほどなー、工夫したなー。仕事用の電話と私用の電話ということなのだろうか。彼なりに考えたんだろうなー。などとワクワク想像していた。
その時だった。私の願いが通じたのか、男のスマホに電話がかかる!
「はい、○○です」
おー。片方の携帯は耳に当てられ、もう一台は、そのまま胸の前にやや位置を下げてぶら下がっている。この時、もう一台のスマホにも電話がかかってきたとしても、男にはもう片方の手と耳が残されているではないか。それはまさに完璧な仕事ぶりだった。
男はこの作戦を考え出したとき、こころの中でさぞや喝采したことであろう。
そしてたぶん、仲間にも自慢しただろうなー。
「これだったら、いつでもパッとスマホに出れるぜ、2台だぞ!」
なんて……。
その結果、もしかしたら上司(アニキ)に、「はいはい、えらいぞ。だったら外で待機してな」とか言われて、この寒い中、来るともわからない人物を、こんな場所で待つ係に抜擢されたのかもしれない。
きっと、彼はあんな見た目だけど、いい人なんだろうなー。
(つづく)