【詩】一番星
高台のベンチに腰掛けて、夕暮れ空を見上げる少年に
善良そうなおばさんが声をかける
ここで何をしているの?
星を待ってるんだ
星? 一番星かしら
そうだよ、もうすぐ見えるはずなんだ
そうなの、でも暗くならないうちに、おうちへ帰るのよ
うん
善良そうなおばさんは、坂道を下りてゆく
少年は、首を同じ角度にしたままで
夕暮れ空を見上げ続ける
少年は、来る日も来る日も、ここで星を待っていた
一番星が見えることだけを待っているのではない
その星が、ここへ落ちてくるのを待っている
一番星が少年の頭の上に降ってきて
一瞬ですべてを粉々にしてくれる時を待っている
おばさんは
暗くならないうちに、おうちへ帰りなさい
と言ったけれど
おうちって、どこだろうか
帰らなければならない家はあるけれど
帰りたい家なんか、どこにもない
西の空に、星が白く輝き始める
今日こそは、ここへ落ちてきて
すべてを粉々に終わらせてくれるだろうか
★Kindleで詩集『戯言―ざれごと―』『寓話』発売中★
(kindle unlimitedご加入の方は無料で読み放題です)
いいなと思ったら応援しよう!
作品を気に入って下さったかたは、よろしければサポートをお願いします。創作の励みになります。