【詩】たった一人
たった一人でよかった
たった一人いればよかった
そうすれば
毎朝起きなくてもよかった
目の眩む太陽を手で遮る必要はなかった
雨を心配しなくてもよかった
毎朝毎晩、他人に裸をさらす必要はなかった
毎日毎日、排泄のことを気に掛けなくて済んだ
記憶に肺を押し潰されることはなかった
愚弄されることはなかった
怒りと憎しみを抑え込むこともなかった
死に向かう苦しみを恐れなくてもよかった
死を願う必要もなかった
死ぬまで生き続ける日々に疲弊しなくて済んだ
楽しみや喜びを追い求める必要もなかった
そう
何十億人、何百億人の先祖の中で
たった一人でよかった
たった一人が、子どもを作らないでくれれば
私はここに存在せずに済んだのだ
それなのに
なぜ、何十億人、何百億人の先祖の中で
たったの一人も、そうしてくれなかったのだろう
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