【詩】不完全一致

ほんとうに一番大切なのは、命ではありません
ほんとうに一番大切なのは、その人自身であり、その人の尊厳なのです

ほんとうに一番問題なのは、死ぬことではありません
ほんとうに一番問題なのは、苦しむことなのです

命が大切なのは　死が問題となるのは
多くの人が多くの場合、死にたくはないからであり
死にたくない者を死へ追いやることは、尊厳の蹂躙だからであり
死に至る道が、多くの場合、苦しみに満ちているからです

けれども
人と命、命と尊厳、死と苦しみは
いつなんどきも、絶対的に同義というわけではありません

命と尊厳が対立し
命と苦しみが同義であるような
死が苦しみの出口であり
死と尊厳が同義であるような
そんな現実が紛れもなく存在する
それが人間の生なのです

命を助けようとするあまり
人を置き去りにしないでください

ほんとうに一番罪であるのは、己から命を追い出すことではありません
ほんとうに一番罪であるのは、苦しみを強要することなのです

命を助けようとするあまり
人の苦しみから目を背けないでください

ほんとうに一番たしかなことは
生の苦しみも　死の苦しみも
尊厳の蹂躙であるということなのです

救おうとするならば、命ではなく人を
命を救うならば、それが苦しみからの解放である限りにおいて