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【詩】そういうことになっている

優生思想はいけません
そういうことになっている

我が子には五体満足を願うだろう?
病や障害を持って生まれないようにと願うだろう?
子どものために、そう願うのだとでもいうのかい?
真に子どものためならば、どんな病や障害が起こるか分からない世に子どもを生み出したりはしないだろう?
それとも、我が子が病や障害を伴って生まれても構わないとでもいうのかい?
つまり、子どもの苦しみなんてどうでもいいわけだね?


誰もが「生きたい」と思える社会にしましょうよ
そういうことになっている

生を終えることを望んで望んで、ついに希望を叶えた病者の言葉を、隅から隅まで読み尽くしたんだろうね?
彼女に「生きたい」と思わせるには、どんな方法があったんだい?
現代医療で治せぬ病の苦しみから、どうやって彼女を生きたまま解放する?
もっと適切で手厚いケアをすればいい?
四六時中他人と関わりケアされる人生が煩わしくて、嫌で嫌でたまらないと言われたら?
もっと心に寄り添えばいい?
いくら心に寄り添っても願いを叶えないなら、結局は苦しみを強いることに変わりはないだろう?
それともあれか?
「お前は生きたいはずだ!」と殴り続ければ、ウィンストンがついにはビッグ・ブラザーを愛したように、いつかは誰もが「生きたい」と思える社会になるだろうね?


いかなる場合も殺人は絶対に許されません
そういうことになっている

アベシンゾウが殺されたとき、「ザマアミロ」とほくそ笑んだ奴はいなかったか?
長年虐待されてきた子が虐待親を殺したとき、それは仕方ないと思わなかったか?
誰も彼もが判で押したように「殺人は許されないし認めるわけではないが」と前置きして、ああだこうだと御託を並べるだろう?
白々しい枕詞で防衛すれば、被害者を加害者にしてしまった後ろめたさを隠蔽できるのかい?
白々しい枕詞を排除して、人が死ななきゃ(人が死んでも)何も変わらない世をどうにかしようとは思わないんだね?


誰だって、ありのままの自分で生きているだけでいいんです
そういうことになっている

人と関わらなけりゃ生きられないだろう?
カネを得なけりゃ生きられないだろう?
カネを得るには労働しなけりゃだろう?
人と関わるなら、労働するなら、ありのままの自分を押し殺して「ふさわしい自分」でいなけりゃならないだろう?
人と関わるのが苦痛でしかない人間、労働できない人間、労働に向かない人間はどうしろと?
そういう奴には支援があるとでもいうんだろう?
「お前は支援に値する」「お前は支援に値しない」と他人にジャッジされる屈辱に耐えろというんだろう?
支援がほしけりゃ、支援に値する人間でいろというんだろう?
ありのままの自分じゃだめだ、自分を殺して生きていけってことだろう?


そういうことになっている
そういうことになっている
そういうことになっているだけで、
真にそうだとは信じられちゃいないのさ
 



辺見庸の小説『月』に触発されて猛烈に書きたくなり、猛烈に書き殴った詩です。


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