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ある躁うつ病者のうつ状態の記録
1月30日。
いつも通り、6時の多段アラームで目が覚める。目が覚めただけである。起き上がることができなくなっていた。当然のように、布団のあたたかさに負けて二度寝し、次に目が覚めたら8時半を回っていた。始まった、と理解し、なんとかiPhoneを手に取って上司へ欠勤の連絡を入れる。返信を見る余裕はどこにもなく、ただ呆然とする。
遂に来やがった。何ヶ月振りかはわからないが、遂に来やがった。
うつ状態である。
ここのところ、考えなければいけないことが多かった。やばいな、という感覚だけはあった。昨夜はライブハウスで音楽を楽しんで帰ったから、おそらくなんとかなるだろうと思っていたのだけど、今回はどうやら音楽では勝てなかったらしい。わかりやすく間違いなく、うつ状態に落ちた。
その証拠に、ほぼ必ず何かしらの音を出していたはずのスピーカーを、鳴らす気すら起きない。試しにQuizKnockの動画を再生してみたが、あまりの明るさに目眩がし、うるさくて速攻で止めた。音楽も無理。TwitterのTLを見るのも無理。それどころか、水分補給のため飲み物を取りに立つどころか、トイレに行く気力すらなかった(これは足を怪我していて元々負担ではあったんだが)。
仕方がない、本でも読むか、と思うも読みかけの小説は重過ぎて無理だと思ったし、そもそもその本を取りに立つ気力がない。じゃあ別の、と思うも本棚へ辿り着けない。仕方がないので、iPhoneに買い溜めた電子書籍の漫画を読み返していた。
そうこうするうち、煙草がなくなることに気付いた。こればかりは仕方がない。身体をひきずり起こし、ようやっと玄関へ辿り着き、クラッチ杖に頼りながら自家用車へ向かう。運転すること自体は、体力を使わないので問題がない。深夜のコンビニは、どんなに緩い服装で訪店しても誰も気にしないので、我々のような者には救いだと思っている。
外出したついでという形で、帰宅後ようやく本棚の前に立つ。ちょうど予約していた続刊が届いた漫画を、全巻枕元に置こうと思った。読み返し読み返し、朝になった。
1月31日。
一睡もできなかったので、睡眠不足とうつ状態を隠せるわけがないと判断し、再度連絡を入れた。どうしても返さねばならないメールがあったので、必死に通常モードを引き摺り戻しながら、「普通」の文章を書き、送信した。
上司からの返信など見たくない。いつもならiPhoneの通知はすべて、できるだけ早く目を通しているが、全部溜め込む。着信音を消せばいい、という発想にすら至らず、昨晩から読んでいた漫画を何度も読み返す。やっぱりいい作品だ。「物語」に没頭していると現実が遠くなるので、こういう時には本当に助かるんだが、俺のうつ状態は何故か文字だけの小説作品を読めなくなる。そもそも音楽がしんどいので、映像作品も駄目だ。漫画が一番、楽に没頭できる。無音の部屋で漫画を読む、それくらいしかできない。
ふと起き上がって、MacBookを触ってみた。……やっぱりまだTLは見られそうにない。でもTogetterは読めそうだ、ああposfieがスタートしたのか。と、2日振りくらいでMacの前に座り、まとめを読み漁った。今思うと、「現在 / 世界」に戻るためのステップが、Togetterとposfieだったようだ。
そのうち、iPhoneに届く「現在 / 世界」からの通知を見られるようになり、溜まりに溜まったLINEやメールの未読に多少うんざりする。そこに、友人からメッセージが届いた。あんたそれ結構大変な話では? そして今日が金曜であることを思い出す。そうか、今夜はLUNKHEADのラジオ放送だ。聴けるかな。いや、聴きたいな。
23時、ラジオが始まった。聴けた。良かった。そして新曲の『星が輝いていた』が流れた。イントロに頭をぶん殴られた気がした。いや、どう考えてもぶん殴られた。
ありがとう。
ただいま、帰りました。