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水筒が爆発して警察が来た話
家賃を滞納しつつ狭いアパートでゴロゴロとしていた俺は焦っていた。
金欠から来る禁煙もひとつの要因だろう。人生そのものに対する、「さすがにヤバイだろう?」という極めて抽象的な問を発していた。
スカした大学生時代に購入した「にーちぇ」をパラパラと捲る。俺の人生を救ってくれ!頼む!
パラパラ……
パラパラ……
本って良い匂いだなぁ。積ん読して良い塩梅な古本になっているからか、紙の匂いが心地良い。パラパラと捲っていると、良い匂いと気持ちの良い風が同時にやって来て一石二鳥だなぁ。
うまい具合に現実逃避をカマしたところで、図書館に避難する。猛暑、狭苦しい空調の効いていないアパートに閉じ籠っていては死ぬ。確実に死ぬ。
大学時代からお世話になっている水筒はリュックに入っている。家では冷たい水にありつけないので、三日に一回は外の冷たい水をこの水筒に封じ込めている。
不審者であると周囲に感ずかれない、ペースを保たねばならないため、残りの二日は我慢が必要。小さな積み重ねが大きな成功を導くのだ。
さぁて、今日も給水給水。喜び勇んで冷水機まで行くと、そこには小学生の群れ群れ。クソ。キッズに先を越された。家に帰れば冷えた麦茶が飲めるだろうが。こちとら生きぬか死ぬか、本気でその水を求めているんだぞ。
しばらく、睨みを効かせていると、母親らしき人間が脇から入ってきた。キツい睨みを俺に浴びせると、そそくさとその場を立ち去る。
何はともあれ、三日ぶりの冷たい水である。図書館で涼んだあと、冷水をパンパンにいれた水筒をリュックに入れて散歩する。嗚呼、良い天気。
二度目のさあて、良い日陰のベンチで水を飲むとしますか。ベンチに腰掛け、膝に置いたリュックを漁る。おっ!あったあった……って熱ぅ!
リュックの中にとてつもなく熱を帯びている物体がある。
「あっあっあっあっ!」
カオナシみたいな声を出しながらその物体をベンチに置く。正体はついさっき、ヒンヤリウォーターを入れた水筒だった。しかし、なぜ?
摩訶不思議な現象に、思わず水筒に顔を近づける。なんか、膨張してる?微かにカタカタ震えてるし……。怖い。脳内を疑問と恐怖に支配されている間、水筒はみるみる膨らんでいく。
「いや!ちょっと、やだ~」
オネエ声と共に膨張を続ける水筒を蹴り飛ばした。両耳を両手の人差し指でふさぎ、その場に蹲る。
パァン!
乾いた破裂音を公園中に轟かせ水筒は木端微塵になった。なんだなんだと、人が集まってくる。急いで逃げる。
幸い追っては無かった。蛇口を捻ると水は出ない。翌日、玄関をノックがノックされ、そこには俺よりも若い警察官が立っていた。