ユウダイヒロタ

フィクションとノンフィクションをごちゃ混ぜにした日記。をまき散らす25歳。

ユウダイヒロタ

フィクションとノンフィクションをごちゃ混ぜにした日記。をまき散らす25歳。

最近の記事

  • 固定された記事

はじめてタイムマシンに乗った日

池袋駅東口を出て、ドン・キホーテ近くの路地裏にタイムマシンはある。東京の大学に進学した理由の半分は、このタイムマシンだ。 まだ、都心にしか設置されていないタイムマシン。二年前に友達からその存在を知り、ずっと夢見てた。 聞いた通りの場所は、自動販売機が延々と立ち並ぶ路地裏。一番奥に歩いていくと、古い電話ボックスのような物が建っている。扉には今にも消えてしまいそうな文字で「Time Machine」と書いてある。確かにここだ。 取っ手を掴んで、引いたり押したりしても鍵がかか

    • 銭湯にて老人のマントヒヒと遭遇した話

      重力と戦い続けた戦士の姿が銭湯にはある。四十三℃の熱湯に浸かり、日々の疲れをいやす。そもそも、無職である俺にとって日々の疲れなどない訳だから、流れ落ちるのは無為な時間と、それに伴って削れ行くプライドであった。 「嗚呼長老……。今日もご立派で」 俺の隣でくつろぐ五十代の常連、パチスロが趣味の飯島さんが声を上げる。長老と呼ばれた老人は、銭湯の戸をゆっくりと開け入ってくる。頭は禿げ上がり、皮膚という皮膚はすべて重力に負けているが、その堂々たる姿は長老という名に相応しい。 「今

      • ベルトコンベアー・エブリデイ

        ベルトコンベアーから流れてくる荷物を見届ける。これが仕事だ。勤続三年、半年前の”エスカレーターに乗る人を見届ける仕事”が評価され、昇進となった。ベルトコンベアーの次はエレベーターになるらしい。 「おっ今日も働いてるねえ!」 昇進をあきらめた同期の山本が僕の肩を叩く。つい、荷物から目をそらしてしまいそうになった。 「おはよう」 心の中は山本への呪詛が巡り巡っているが、そんなことをやっていては仕事に支障をきたす。こぶしを握り、ベルトコンベアーに乗った荷物を延々と見つめる。

        • 鉄塔が映し出す映像

          人間には知覚できない速さだった。次から次へと情報を送受信しては、無数の人間のもとへ情報を届けている。人間が作った物であるにも関わらず、追いつけない。車を使っても、走っても、新幹線に乗っても、その速度に追いつくことは不可能だ。 *** やっと追いついた。何年掛かったかわからない。数えたくもない。今はただ、目の前のガラクタを目の前にしてやっと辿りついた結論に酔いしれたい。言葉通り半壊している。数百年前の遺物だ。ついさっきまでは私たちにとって謎の構造物であった。 「デンキとい

        • 固定された記事

        はじめてタイムマシンに乗った日

          首都高と夜景の加速度

          レールに見えた夜景は数え切れぬ自動車のランプだった。走っているだけでは、見えない光景。自動車を降り、高層ビルの屋上から見下ろさなければ見えない光景。見下ろして「綺麗ね」などと感想をつぶやく。グレーの雲の隙間から飛行体。ヘリポートは一定間隔で点滅している。 自分がその光景の一部になれば、出てこない感想をつぶやく。鳥の目になって、苦労を垣間見ず、ただただ有頂天・能天気になってこぼす言葉。地上の冷え切った空気の中、ぬるま湯に浸かっている。深夜のコンビニエンスストアで買った缶チュー

          首都高と夜景の加速度

          ドロップキックで客を倒した富永くん2

          『ドロップキックで客を倒した富永くん1』の続きです ------------ 「君も僕のこと見に来た?」 富永くんは眉をㇵの字にして、悲しそうな顔をして言った。「え、あ、いや……」と、言葉にならない声を出しながら、返答に困っていると、富永くんは顔を伏せてパックジュースをレジに通した。 外は既に暗くなっていた。車のヘッドライトが時折、直接光って顔をしかめる。スマートフォンを買った時に付属していたイヤフォンのねじれを取って耳に入れた。どの曲を聞いても、富永くんの言葉と顔が

          ドロップキックで客を倒した富永くん2

          ドロップキックで客を倒した富永くん1

          「富永くんのコンビニには近づくな」 誰もいない空調の効いた教室で高橋は言った。高校二年生の夏休み、卒業課題の休憩中だった。高橋はパックのコーヒー牛乳を飲むと唐突に呟いた。そもそも、富永くんって誰だ?聞いたこともない。 「富永くんって?」 「まあ無理もないな。俺も斎藤から聞かされた時は誰?って感じだったし。隣のクラスの奴だよ」 高橋は話し始めた。どうやら、隣のクラスに「富永くん」と呼ばれている男子生徒がいること。富永くんは学校から少し離れたコンビニでアルバイトをしている

          ドロップキックで客を倒した富永くん1

          乾パンフレンドの終焉

          基本的に三食すべて乾パンで済ませている俺は、台湾旅行でも乾パンをぱくついていた。友達は既にご当地グルメを堪能すべく、街に繰り出してしまった。ホテル内に響き渡る乾パンをかみ砕く音。 三人で旅行に来ているというのに、俺だけ置いていくことないだろう。ぼりぼりぼりぼり……。街に繰り出した友人の一人は「乾パンフレンド」である。病める時も、健やかなる時も俺たちは二人で乾パンに齧りついていたではないか!よお田中よお! 「台湾の女の子って可愛いらしいぜ」 鼻息を荒くする普通人の六本木。

          乾パンフレンドの終焉

          漢字、踊る。

          十四時間の「そのうち絶対死ぬ労働」を終え、つかの間の休息。敷布団に寝っ転がり、天井を見上げる。遠くから、トラックの音。鳴き声を聞いたことはあるけれど、固有名詞の浮かばない虫が鳴いている。 明日こそは禿げ上がった上司の頭を一発どついてやろう。できるはずもない目標を掲げながら天井のシミを見つめる。 つい、一週間前まで不眠気味だったのに、最近はこうして天井を眺めていると知らぬ間に寝てしまう。どんどん意識が遠のく。暗闇で目を開けていると、周りがじわじわと夜空のようになっていく感覚

          誕生日に宇宙人を貰う文化

          毎年の誕生日会は、両親の同僚や親戚、僕の友達とたくさんの来客がある。大人たちは僕に、周りの子たちは持っていないような、高価なプレゼントをくれる。 でも、今日だけはおかしい。来客は祖父母だけ。リビングの大きなテーブルの前には祖父母と両親、それと僕の五人だけが座っていた。食事も小さなホールケーキと見たことのないグロテスクな見た目の肉。 「ほら、ローストビーフ食べないの?好きでしょお肉?」 母がフォークであのグロテスクな肉を僕のさらに乗せようとする。周りの父と祖父母の表情はい

          誕生日に宇宙人を貰う文化

          ちゃんぽん食べて鼻血吹き出した話

          日曜日の真っ昼間、俺はちゃんぽんを食べていた。二日酔い、野菜不足、遊ぶ友達もいない……様々な偶然が重なって日曜日の真っ昼間に独りちゃんぽんをパクつく羽目になったのである。 シャキシャキのみずみずしい野菜に齧りついていると、沸々と沸き上がる生の実感。ラー油入れて、酢を入れて、胡椒をこれでもかと振る。二日酔いで震える手によって、胡椒は良い塩梅に丼に盛られた。 もうちょっとかな、振る。振る。さらに、振る…… ヴぇくしょん!! 調子に乗って胡椒を振り続けた結果、店内に響き渡るくし

          ちゃんぽん食べて鼻血吹き出した話

          水筒が爆発して警察が来た話

          家賃を滞納しつつ狭いアパートでゴロゴロとしていた俺は焦っていた。 金欠から来る禁煙もひとつの要因だろう。人生そのものに対する、「さすがにヤバイだろう?」という極めて抽象的な問を発していた。 スカした大学生時代に購入した「にーちぇ」をパラパラと捲る。俺の人生を救ってくれ!頼む! パラパラ…… パラパラ…… 本って良い匂いだなぁ。積ん読して良い塩梅な古本になっているからか、紙の匂いが心地良い。パラパラと捲っていると、良い匂いと気持ちの良い風が同時にやって来て一石二鳥だな

          水筒が爆発して警察が来た話

          道玄坂で転ぶ。ついでに財布落としの刑

          派手に転ぶ。二十五歳の男が渋谷・道玄坂で転ぶ。そもそも、なんで道玄坂に来ていたのか?一瞬、忘れそうになる。思い出す。そもそも、大それた理由なんてない。 長年の引きこもり生活に嫌気が差し、心機一転お出かけしようと考えたのだ。ダーツの旅の如く、ランダムに決める。人生ゲームのルーレットの数字を地名に置き換える。東京都の主要な都市を書き込み、回したルーレット。七の目、すなわち渋谷に針が止まったのだ。 渋谷は分からない。道玄坂くらいしか知らない、ということで道玄坂まで来た。結構いい

          道玄坂で転ぶ。ついでに財布落としの刑

          野良猫に会った話

          会社帰りのいつもの川沿い。生き物の鳴き声で心臓が跳ね上がる。あたりを見回すと、雑草の隙間から猫がこちらを見ていた。ゆっくりとこちらに歩いてくる。 等間隔に建てられた街灯に照らされて輪郭がはっきりと浮かび上がる。それは、黒い薄汚れた野良猫だった。 「に゛ゃあ゛」 君、酒やしてんのか?と言いたいくらいの鳴き声。お世辞にも可愛いとは言えない。しゃがんでよく見ると、首元に赤い首輪があった。飼い猫だったのか、この野良猫を可愛がっている人間がつけたものなのかはわからない。ただ、赤い

          野良猫に会った話

          上野・ホリディ・ドンタコス

          「上野前夜祭」明けの日曜日。強烈な二日酔いに侵されながら、上野をぶらつく。まずは、やきとん。ここぞとばかりに空元気を唸り上げ、生を注文する。 黒ハチマキの親父が目の前にジョッキを置く。泡の比率は七対三。ベストコンディションビールが目の前に鎮座した。まだ昼の十二時を回ったばかりなのに、周りは二日酔い必至の酔っぱらいの声が響き渡る。酔っぱらいに負けじと声を張り上げる店員。すべてがすべて、二日酔いの悪化を招くような空間でジョッキを持つ。 アルコールの離脱症状により、手が震える。

          上野・ホリディ・ドンタコス

          ボーイ・ミーツ・ガール男、走る

          「で、結局大学時代何やってきたの?サークルとかもやってなかったみたいだしさあ。成績もさあ。ほら、悪く言うつもりはないよお?言ってしまえばパッとしないんだよねえ」 小太りの脂ぎった男は人差し指を白のプラスティックテーブルに一定間隔で打ち付ける。 「えっと、そのまあ……」 ぐうの音も出ない。キャリアセンターで習った面接の作法<軽い握りこぶしを膝の上に置き背筋を伸ばす>は、一向に効果を発揮しない。軽い握りこぶしは既に固い握りこぶしへと変化し、こめかみから汗が流れる。修業が足り

          ボーイ・ミーツ・ガール男、走る