読書記録「チボー家の人々 ラ・ソレリーナ」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著
山内義雄訳
白水uブックス
1984
ジャックの家出に至るまでの謎が少しずつ解明される。
前半はチボー父の様子から。病状は進んでいる。もう死ぬのだと周りに言ってみて、周りの反応を試してみたりする。
看護師のセリーヌや秘書のシャール氏、そして”おばさん”はじめとする女中たちの言動は病人を不安にさせてしまう。
そんな中で、確固とした調子でしゃべり、一瞬で父を安心させてしまうアントワーヌ。アントワーヌが病人の精神状態もケアする優秀な医者であることが分かる。
そんな中で父が話し出したジャックのこと。息子が自殺したと思い込み、父親として十分なことをしてやれなかったとの後悔の念を述べるのを聞くアントワーヌ。
ジャックはプロテスタントのフォンタナン家の名を出したら父がどんな反応をするか分かっていて、それでも口に出さずにはいられなかったのだ。
そんな中で届いたジャック当ての手紙を手がかりにアントワーヌは再びジャックの行方を探し始める。
ジャックの家出がラシェルとの旅に出ていたまさにその日であることが分かる。
アントワーヌがジャックの異変やジゼールの気持ちになぜ気がつかなかったのか、ラシェルとの日々と同時期であったことから少し合点がいった。
そしてアントワーヌには見えていなかったであろう部分が、ジャックの小説「ラ・ソレリーナ」から明らかになる。
タイトルにもなっている”ソレリーナ”はイタリア語で”妹”の意。小説ではジゼールは実の妹という設定。どういう意味でジャックはこのタイトルをつけたのだろう。
ジャックの家出が父に精神的ストレスを与え病状を進行させたことへの怒りの気持ちがありながらも、父の側に自分ひとりでいるのは辛いとジャックを連れ戻そうとスイスにやってきたアントワーヌ。
兄に家出してからの出来事を話そうとしながらも何度も口をつぐむジャックの様子が印象に残る。
巻末の解説にあったこの時代のスイスという場所。
第一インターナショナルが1864年にロンドンで結成されたあと、第一回大会がジュネーブ、続いてローザンヌ、バーゼルと立て続けにスイスで開催されている。1874年にの第二インターナショナルが結成され、この物語の前年、1912年にはバーゼルで第八回大会が開かれている。
どこでそのような人たちと知り合ったのかは分からないが、ジャックがかなり尊敬され、意見を求められるような人物であることが分かる。アントワーヌの知らない一面。
ジャックは一度はパリに戻ることになった。
でもきっと、ジャックがチボー家の一員として元のような生活をすることはないのだろう。
これまでの感想
【チボー家の人々 灰色のノート】
【チボー家の人々 少年園】
【チボー家の人々 美しい季節】
【チボー家の人々 診察】