読書記録「チボー家の人々 診察」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著
山内義雄訳
白水uブックス
1984
美しい季節から3年後。
アントワーヌの診察の、わずか1日の様子に丸々一巻を割いている。
ジャックは失踪しているようだが、あくまでアントワーヌの診察のある1日の描写なのでその真相は分からない。ダニエルたちフォンタナン一家の様子もまた分からない。
父は病で長くベッドにおり、アントワーヌは父の死期を悟っているが医者としてそれを態度には出さず様子を見守り続けている。
フォンタナン家に居候したのち結婚したニコル。彼女の産んだ小さな娘は医者として手の施しようのない状態にある。
医者としてどうすべきか、安楽死という問題がここにある。
そしてニコルの娘の死をきき、それが自分の注射によるものなのかという戸惑いと、ホッとした思いとがアントワーヌの心の中にある。
この時点でまだアントワーヌの医者としての態度ははっきりとはしていないように思える。
ドイツとの関係悪化と戦争が起こりそうだという噂を患者から聞いても対して感心を示さない。
これがこの時代のフランス人の一般的な感覚だったのだろう。
印象的だったのはアントワーヌはラシェルはもう生きてはいないだろうと心の中で断定していること。
そしてジゼルの美しさに気づいたとき、結婚したいとまで心に思う。
ジャックを思うジゼルの気持ちとその秘めた計画にアントワーヌなら気付いてもよさそうなものだが。
今の時点ではよく分からない、ここまでのページを割いたこの一巻は何だったのだろうとう感じが強い。
この意味はこの先読み進めていくことで分かるのかもしれない。
これまでの感想
【チボー家の人々 灰色のノート】
【チボー家の人々 少年園】
【チボー家の人々 美しい季節】