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読書記録「天平の甍」井上靖著

新潮文庫
2005

連載は中央公論社から1975年。
第9次遣唐使で唐へ渡った2人の僧、普照と栄叡をメインにした物語。

阿倍仲麻呂以外の遣唐使も、一度渡れば20年近く唐にいたということを知らず、驚いた。
それだけ長い年月を過ごせば、個々の進む道は大きく違ってくるだろう。

一緒に海を渡った仲間でも早々とホームシックになる玄朗のような僧もいれば、留学僧としての立場を捨てて唐を隅々まで見てまわり天竺を目指そうとする戒融のような僧もいる。
現地で妻を得る玄朗のような僧もいたに違いない。

性格の相違はあっても、鑑真を日本につれてくるという同じ目標に向かった普照と栄叡。
当初その計画を積極的に推し進めていた栄叡が病で亡くなり、迷いながらも鑑真の渡日が自分の果たす役割だと最後は腹をくくる普照。

無事に日本にたどり着いた鑑真と普照らだが、出発したときと日本の情勢は大きく変わっている。

普照が渡唐する当時は、課役を免れる目的で百姓の出家が多く、これが大きい社会問題となっていたし、行基を指導者とする一派が民衆の間に根強い力を持ち始めて、そこから来る混乱が全国的に拡がっており、僧尼の行儀も極度に堕落し、政府は仏徒を取り締まるのに手を焼いていた。

不思議なのは、物語で大きな役割である鑑真のキャラクターが全く見えないこと。日本に行くという固い決意は伝わるが、計画がうまくいかない仲でその思いを口にはっきりと出すことはないので弟子たちは推し量るほかない。

登場する多くの留学僧のなかで印象的だったのは普照らより前に唐に渡り、独自の修行を続けていた業行や景雲。
唐についたばかりの頃は理解できない人たちとして普照の眼に写った二人。
長い年月唐に暮らしながら何も学ばなかったという景雲。そして写経をひたすら続け、それを何とか日本に持ち帰ろうとする業行。全てを無事に日本に持っていくという業行のもはや執念にも似た思い。
この2人がどちらも無事に日本にたどり着けなかったというのはなんだか残酷さを感じた。

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