オタクは今世のために徳を積む
今期、日曜22時30分から放送されているブラッシュアップライフというドラマが、はちゃめちゃに面白い。
33歳の安藤サクラさん演じる主人公 近藤麻美(あーちん)が不慮の事故で亡くなり、来世は『オオアリクイ』になると言われたことでまた人間になるべく記憶があるまま人生をやり直して、徳を積むお話。
脚本がバカリズムさんでこの手のお話をバカリさんが書いたら観なくても面白いと言い切れるほど、バカリさんの作るお話には絶大な信頼を置いている。
このお話のメインテーマとなる『徳を積む』という行為は、私みたいなジャニーズのオタクにはとても日常的な言葉だ。
推しのコンサートが近づいてくると、チケットを当てたい一心でこれみよがしに善良な人間の振る舞いを心がけたりする。
自分の願いを達成するために誰かに良いことをするという打算的な徳積みについては
「良い行い」と「チケットを当てて推しに会いたい、願わくば良席で」という欲を足し引きしたら、
果たして良い行いがプラスとして本当に残るのか?むしろその現金な強欲な気持ちの方がプラスマイナス、マイナスなのでは……?
というかの有名な『オタクの徳積み問題』というのがあり、我々にとっては一生解けない難問である。
冒頭で紹介したブラッシュアップライフというドラマの人生2周目では、不倫が原因で離婚した同級生の父親の不倫を阻止したり
痴漢の冤罪に巻き込まれた嫌いな高校時代の教師を救ったりし、見事あーちんは『オオアリクイ』から『ニジョウサバ』へ僅かなブラッシュアップを果たした。
私は昔から"やらない善よりやる偽善"という考え方なので
例えそこに計算高い気持ちがあったとしても
それで誰かがちょっと嬉しくなったり救われたりするなら、やらないという選択肢はない。
だから私はお手洗いから出てきてスカートのファスナーが全開の女の子には小声で声をかけるし、
会社の誰が捨てるとも決まっていないゴミ箱は率先して毎朝ビルの外にあるゴミ収集場まで捨てに行く。朝の忙しい5分を使って。(ここがミソ)
そんな私は今まで何度か、
『ゼロさんって人生2週目なんじゃないかって思う』
と言われたことがある。
あいにく私には前世の記憶どころか、10年前がついこないだだと思ってしまうくらい最近の記憶すら怪しいので生まれ変わっている訳ではないのだけど
暗黒の10代、それをこじらせて袋小路に入った20代のおかげで
こういう時にはこうした方がいいとか、この流れはこうなるからやめようとか、そういうことは昔に比べて判断ができるようになったし、色んなことに期待しなくなったという実感がある。
不思議だけど、だいたい10年おきくらいに新たなステージを登っているなという感覚があって
今は言うならば少しだけぬかるんだ舗装されていない道を歩き始めた30代。
まだ時々、足元を取られて転びそうになっている。
それぞれ10年周期で人生1週目と数えていくと今の私は人生3週目の半ば、
前述の通りゴミを捨てたり、トイレットペーパーが切れたらちゃんと自分が出る前に補充したり、ショッピングモールの駐車場でライトが付けっぱなしの車のナンバーを控えてサービスカウンターに知らせたり
それはもう一生懸命に徳を積んでいるので、きっと40代は舗装されたコンクリートの道くらいにはなっているんじゃないかと期待している。
ブラッシュアップライフのドラマの中ではどれくらい徳を積んだかと言うのは死んだ時にわかるけれど
私たちオタクは、何かに申し込んで当落が出る度に自分がオオアリクイなのかヒトとして人権を得られたのかを、
容赦なく突きつけられる。
さっきからまるで自分が仏かのように良いところしか書いていないことに気付いたのでちゃんと書いておくと、
私は全くできた人間ではないので
コピー用紙が切れたのに補充しない同僚とか、エレベーターが開いて私が降りるより先に乗り込んでくる人を見るだけでイラッとするし
コンディションによっては心の中で呪ってしまう。
そして当落が出て『第2希望以降を含め、このお申し込みは落選です』という文字を見た時に
自分の過去の浅はかな呪いを反省するのだ。
オタクはこうやって積んだ徳を今世で消費しているので、
死んで生まれ変わるとしてもいいところアマゾン奥地の熱帯植物とかだろうなと思うけれど
私は例え熱帯植物になったとしても今世で推しに会いたいし、なんなら私の徳を使ってもいいので推しに大きなお仕事が来たり、推しの夢が叶って欲しいと思う。
そしてこんな風に健気に推しの幸せを願っていたら、もしかして神様が徳積みボーナスを支給してくれたりするんじゃないかなと期待し、
それがまた打算的な徳積み行為だということに気づいて
一生終わらないオタクの徳積みルーティンワーク、いっちょあがり。
来世はオオアリクイでいいので、どうか神様、今世で推しにたくさん会わせて下さい。よろしくお願いします。
さて、ここまで読んでくれたそこのあなた
おめでとうございます。
私を幸せにしてくれたので、徳、積みましたよ。