月の小舟
月の小舟が夜を漕ぐ。
目覚めと眠りを繰り返していたら
見えているものや目指している場所が
いつの間にか、それぞれに、
変わっていた。
今はひとりだけの地図を手にして
方位磁針をくるくると回している。
広い海原で偶然出会ったあの舟は
一緒に旅したことはあっても、
やはり別の舟だった。
あるいは増えて、あるいは減って
気付けば大きくはなれていた。
元々、違っていたものたちだ。
舟の素材も、荷物の重さも
くぐり抜けた波の数とその高さも。
空の色、風の音、
潮の香りや舟の旅の楽しみ方、
感じ方が似ていたから
生まれる波はいつでも穏やかだった。
丁寧な漕ぎ方をする人で
私もよく真似をした。
めぐみ深い人なのは
出会ったときからずっと変わらない。
昨夜、電波を受信した。
“守るべきものを抱えて
新たな光へ
懸命に進んでいる”、という。
夜の海に漂うとき、時々思い出す。
一緒に見上げた星空の、美しかったことを。
虹色の雲をさがして笑い合った、あの日々のことを。