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『ボードゲームから始まる世界』第一話:運命の出会い

春の風が心地よく、体育館に集まった新入生たちは、少し緊張しながらも期待に胸を膨らませていた。新学期の始まりを告げる新入生歓迎会が、いよいよ始まったのだ。

会場は賑やかで、各部活動がその魅力をアピールするために準備を進めていた。音楽部が楽器を奏で、スポーツ部がエネルギッシュなパフォーマンスを披露し、軽音楽部がライブ演奏を行う中、最後の部活として登場するのは、ボードゲーム部。

新入生たちの中には、「ボードゲーム部って、どうせちょっと遊ぶだけの部活でしょ?」と少し冷ややかな目線を送る者もいた。しかし、そんな先入観を一瞬で覆すような光景が、すぐに広がった。

「さあ、次はボードゲーム部のパフォーマンスです!準備はできていますか?」
司会者の声が響き、突然の注目を浴びてボードゲーム部がステージに登場した。部員たちは、どこか誇らしげに立っている。中央に立ったのは、斎藤隼人(さいとう はやと)。彼はこの部活の部長である。

隼人は知的な雰囲気を纏い、目元をほんの少し隠す前髪越しに鋭い視線を放つ。その風貌からは、まるで学者や研究者のような印象を受けるが、そこに秘められたのは、ボードゲームに対する深い愛情と情熱だった。

「ボードゲーム部、部長の斎藤隼人です。」
隼人の声は、しっかりと会場に響き渡る。その静かな口調の中に、何か強い決意を感じ取った新入生たちは、少しずつ興味を持ち始めた。

「本日は、私たちが作った即興ボードゲームを、皆さんにお見せします。」
隼人は手に持った大きなサイコロを軽く回しながら言った。そのサイコロは、普通のサイコロではない。少し大きく、そして特別なデザインが施されていた。

「このサイコロでお題を決め、それを元に10分でボードゲームを作ります。」
隼人の言葉に、会場が一瞬で静まり返る。

「え、10分でボードゲームを作る?」
「そんなことできるのか?」

新入生たちの間に驚きの声が上がる。しかし、隼人は淡々とサイコロを振り、出た目を見てから冷静に話し始めた。

「出た目は…4番。『忍者対決』です。」
隼人はそう言うと、テーブルにカードと小さな駒、そしてルールの書かれたメモを取り出した。その動きは、まるですでに出来上がったゲームを目の前にしているかのようにスムーズで無駄がない。

その隼人の姿に、新入生たちはただただ驚き、何も言えなかった。

「では、さっそく始めます。ゲームのテーマは『忍者対決』。プレイヤーは忍者となり、相手の拠点を占拠することを目指します。カードを使って特殊な能力を発動したり、ダイスを振って行動を決めたりします。」
隼人が次々とボード上に駒を置き、進行方法を説明していく。わずか10分で、ゲームの骨組みが完成していった。

その様子を、隼人の隣に立っていた桜井茜(さくらい あかね)が見守っていた。彼女はボードゲーム部の1年生で、まだ部活には入ったばかり。興味はあったものの、実際にゲームを作るなんて考えたこともなかった。

茜はメガネをかけ、少し控えめな雰囲気を持っていた。彼女自身、周りの目を気にして目立たないようにしていたが、心の中ではいつも何か新しいことをしてみたいと思っていた。

隼人の手際よく進められるボードゲーム制作を見て、茜は興奮を隠しきれなかった。

「すごい…本当にこんな短時間でゲームが完成するんだ…」
彼女は思わず声を漏らす。それを聞いた隼人は、少し笑みを浮かべて答えた。
「ボードゲームは、アイデアと工夫があれば誰でも作れるんです。問題は、面白さをどう引き出すか、そしてルールがどう絡むかですけどね。」
その言葉に、茜はますます興味を持ち、隼人に質問を投げかけた。
「じゃあ、どうやって面白さを引き出すんですか?」
隼人は一瞬、少しだけ真剣な表情を浮かべた。
「それは、実際にゲームをプレイしてみないとわからない部分が大きいです。試行錯誤を繰り返しながら、最適なバランスを見つけていくんです。」
茜はその言葉に深くうなずき、心の中で新たな世界への扉が開かれた気がした。

ボードゲーム部のパフォーマンスは、予定通り大成功を収めた。新入生たちの中で何人かが興味を持ち、部活に参加することを決めた。茜もその一人だった。

その日、彼女の心には新たな夢が芽生えた。「私も、ボードゲームを作ってみたい。」
そう思った瞬間、隼人とボードゲーム制作の道が交差し、茜の青春が新たに動き出したのだった。

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