虎に翼 第68回 やはり演出の勝利
冒頭。
最高裁の新長官である山本が颯爽と扉を開けて入室。ここで会議室で待機していた判事の全員が濃い色の背広にネクタイの男性であることからくる重苦しさ、圧迫感のようなものを視聴者はまず感じさせられる。しかもほぼ全員が初老の権威のオーラをまとった人たち。
ドラマが始まってすぐ、大学の夜学に通う優三さんにお弁当を届けに来た寅子が、最初に桂場そして次に穂高教授に声をかけられ、ナレーション「これは……多分、偉い感じの人だ」「それで、偉い感じの人に怒られるやつだ!」と説明した場面のグレードアップ版、偉い感じの人たちがそこにいない女性のことを「無能力者」と言って勝手に法の話をしているアレの再現にも見える。今日のそこに寅子はいないけれど。
長官「新憲法下で初となる判断を迫られています。ぜひ、皆さんのご意見をうかがいたい」
【議題】尊属殺規定は新憲法第14条に反しているのか、それとも…という厳しいもの。当然、私達の今にも通じてくる問題。
15人の判事のうち、違憲と(あらゆる人は平等であるという新憲法のもと)声を上げたのはわずか2人。それでも、声を上げたことは記録に残る、無駄ではないと夜食の箸を置いて道男や弟たちに説く寅子。
ちゃぶ台を囲むのは現時点で猪爪家の大黒柱(稼ぎ手)である寅子と、あとは男子ばかり。優未はもう寝てしまい、花江は隣室で針仕事をしながら寅子たちのやりとりを無言で聞いている、という構図もまた、どこか不穏に見える。
花江ちゃんは「お義母さんにはできなかった『甘える』という必殺技(とは言っていなかったかもだが)を使うことで自分は猪爪家の主婦としてお義母さんよりも上手にやっていける」と言っていたけど、かといって現状、家庭でただ一人の「幼い娘」である優未に対して、どう接して育てていけばいいのか、手探りだったり、あるいは優未の「実の母」である寅子への遠慮があるのかな、という気もする。
そしてちゃぶ台に置かれた新聞の記事。
「尊属敬重は人類普遍の原理(神保判事語る)」という見出し。
少しだけ個人的な話になりますが、まさに普遍やら原理とやらを、私自身、仕事でとっさにどう解釈する(=訳す)か、オノレの反射神経をいつもあとから死ぬほど嫌悪することが多いからね。あ痛たたっ。
神保先生は新民法の調整のときも、持論の拠り所として「家制度、家長制度という日本の尊い伝統を死なせてはならぬ」というようなことを言っていらしたけれど、その伝統自体、昭和25年から遡ることほんの数十年、明治の憲法制定のときにいきなり作ったものだし、という「果たしてそんなもんを根拠としていいのか」という背景を考えると、寅子でなくても、じつにもやもやしますよね。
あと、いよいよの岡田将生の登場で、メモしておかねばと。
ドラマスタート時、石田ゆり子が母親役でキャストされてると知ったときも思ったのが、可愛らしさで人気が高かったり、顔がよすぎる役者さんって、どうしたって演技の深みとか面白みよりも表面的なことにこちらの目が行きがちだから難しそう、という。まあでも、今日は竹もとでの寅子と航一のやりとりが、つい聞こえてしまっていたらしいw梅子さんの(あらあらあら)と、吹き出しの台詞が見えそうな笑顔は佳かったなあ。これぞ演出の勝利。