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工房にて

この作品は、アイキャッチ画像のイラスト(作:かくたすず#マンガさん)からイメージしたストーリー『何や、よう降りますなぁ』から始まった「雨の京都シリーズ」第4作目です。

* * *

「葉(よう)はん、こないな雨の中、よう来はったなぁ」
「芳夫(よしお)はんの傘、使いたかってん。かど屋はんで宣伝しときましたえ。はい。これ、期間限定のお菓子」
「おおきに。じゃ、一緒にお菓子いただきながら、お茶飲もか。お抹茶立てるわ」

芳夫は、葉を客間へ招いた。

しばらくすると、抹茶とともに紫陽花のお菓子が運ばれてきた。
抹茶とお菓子を味わったふたりは、歓談する。

「芳夫はん、玄関の前の紫陽花、誰かが持ってきはったん? 今年初めてピンクの紫陽花見たわぁ」
「傘を買(こ)うてくれたお客さんが、持ってきてくれはったん。あとで写真撮ってくか?」
「うん。写真撮りたい思ててん。ここに来る途中でも撮ってきてん。見て」

葉は弾んだ様子で、芳夫にスマホのアルバムを見せた。

「おっ。紫陽花と猫やね。葉はんが好みそうな美猫や。紫陽花は、この辺のグラデーションが気にいったんやろ?」
「わかる?」
「だいたいわかるなぁ。またネットでアップするんか?」
「もちろん。玄関の紫陽花も撮らせてもろて、一緒にアップするん」
「なら、また見さしてもらうわ」
「いつもおおきに」

花が咲いたような笑顔を見せる葉。
芳夫は、そんな葉にときめきながらも、平静を装う。
穏やかな時が流れていった。

(続く)

***

シリーズ作品はマガジン「雨の京都シリーズ」にまとめています。

アイキャッチ画像のイラスト作者・かくたすず#マンガさんのクリエイターページ


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夕月 檸檬 (ゆづき れもん)
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