インタビュー:コンサートマスター戸澤 哲夫さん
特級ファイナルの演奏後、4人のファイナリストとともに協奏曲を創り上げた、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のコンサートマスター・戸澤哲夫さんにお話を伺うことができました。
――まずは素晴らしい演奏をありがとうございました。今日はコンクールでしたが、通常のコンサートと比較して、音楽づくりにおいて特に意識するポイントなどはありますか。
戸澤さん 通常のコンサートもコンクールでも、最高の音楽を作っていく、という目指す地点は共通です。でももちろん、コンクールという場の持つ、独特の緊張感というのはあると思います。特にコンクールはコンテスタントが若いことが多いですから、オーケストラと演奏経験がある人というのは少ない。とはいえ、ファイナルまで来るようなソリスト達には、経験が少ないとしても、溢れる才能がある。そこを一番輝くようにしながらも、彼らが知らない部分をサポートしていくということが必要です。
――具体的にはどのように進めていくのでしょうか。
戸澤さん 各曲に合わせるのが難しい箇所、というのがあって、マエストロと協力しながら曲を作り上げていきます。「特定のフレーズや和音を目印に集合しよう」と、オーケストラと決めることもあるし、それを本人にお伝えすることもあります。
――そうした準備があって、今日の本番につながったわけですね。
戸澤さん コンテスタント達は本番のステージで、通常と全く違う精神状態になっています。それが力となる場合ももあれば、本番独特の空気感の中で、自分では表現しているつもりでも、思ったようにいかない場合もある。そういう場合に、オーケストラがリカバリーしようと思っても、何しろ大人数なので少しずつタイムラグがある。一度動き出したら止めることができない大型車両みたいなものです。
――ではどうやって、本番での即興的な動きに対応していけばいいのでしょうか。
戸澤さん 経験豊かなソリストというのは「これから仕掛けるぞ」というのが見えるんです。
――見える。視線などでしょうか?
戸澤さん もちろんアイコンタクトもありますが、オーラというか、気配というか・・。すごい演奏家というのは、言葉にならない部分の伝え方がすごいんです。でも結局は、オーケストラとの経験が物を言うと思います。
――今日のソリスト達の演奏はどうでしたか?
戸澤さん みなさん協奏曲を、ピアノ伴奏で練習をしてきたんだと思うんです。でもピアノ伴奏のその音が、どの楽器の音なのかなどを、もっともっと細かく、興味を持ってやっていく必要があるな、と感じました。そういう勉強をしておくと、いざ本番となった時の対応力が違う。今日一緒に弾いている時に、今この楽器と演奏している、ということまで感じさせてくれるような演奏は少なかったかもしれません。
そもそもピアノという楽器は、一人でオーケストラをやっているようなものです。そういう勉強をしておくと、ピアノソロの演奏にも必ずフィードバックされてくるはずです。
いつも感じるのは、若い人達というのは、一晩寝ると見違えるように変わってくるということ。リハーサル、ゲネプロ、本番というプロセスを経て、本番がどう転ぶかはその時次第です。
今日、思い通りの演奏ができたという人も、そうでなかった人もいるでしょう。オーケストラとの、しかも初めての演奏なら小さくなってしまっても当然のところ、今日は全員、やりたいことをちゃんと表現されていて、素晴らしかった。私たちだって、いつも理想の演奏ができるわけではないんです。
もしうまくいかなかったと感じたとしても、思い切って攻めた演奏をして失敗したのなら、必ず次に生きてきます。みなさんのこれからの活躍を楽しみにしています。
戸澤さん、ありがとうございました!
(写真提供:ピティナ/カメラマン:石田宗一郎・永田大祐)