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春の「連」茶会(VOL.2)

心待ちにしていた桜が満開を迎えた日、都内のお茶室で、伊藤穰一さんと松本大さんのお茶会が開催されました。私は記録係補佐として、同席させていただきました。

濃茶席

壁にかかった軸は「松風供一啜(しょうふういっせつにきょうす)」。裏千家第14代御家元、淡々斎の筆です。名水を汲んで点てたお茶を、谷からの松風と共に一啜りにする、という漢詩の一説なのだそう。

松風の「松」は、「大(おおき)」というお名前を持つ、松本さんの「松」にも通じているのかな?と思いながら拝見しました。

季節の花を飾って

どっしりとした備前の水指に水をはり、釜にお湯を沸かします。

湯をたっぷりと沸かして
棗の中のお茶を整えます

お茶を掃いて、御菓子の準備も整った頃、外から賑やかな声が聞こえました。今日のお客さまがいらっしゃったようです。

今日のお客さまは5人。イギリスからいらしたという、伊藤さん松本さん共通のご友人です。

ようこそいらっしゃいました!

みなさまお茶席は初体験ということで、松本さんがお正客をつとめられました。

まずはお菓子を

さっそく、お菓子をいただきます。
今日のお菓子は、「花時」。製は浜松の巌邑堂さん。

花時

春らしい陽射しに揺れる桜と桃の花が、練り切りで表されています。このお菓子は、
「ももという名もあるものを時の間に 散る桜にも思ひおとさじ」
という、紫式部の夫の歌に由来しています。今月のひとうたの茶席でもご紹介していますよ(ちょっと宣伝)。

お茶席の歴史やいただき方の説明をしながら、伊藤さんが濃茶のお点前をされました。

英語でご説明しながらのお点前

伊藤さんは裏千家、松本さんは遠州流と、異なる流派で習われています。
流派の違いや武士の時代のお茶について、お客さまは興味深々です。

質問をされるお客さま

正客のお茶碗のは、第十一代 慶入の作。比較的若い時期の作品とのことで、お茶を習い始めてまだ2年足らずの、ご自身に重ねてという意味合いもあって選ばれたのだとのこと。

茶杓の銘は「日々新」。毎日お点前の練習を欠かさないという伊藤さんの心がまえのようなものでしょうか。

質問に応えながらのお点前

お茶のいただき方のレクチャーを受け、皆さんお作法に従って、お茶を召し上がりました。

お茶碗を回して・・
笑顔の絶えないお席でした

立礼席

続いて、そばの立礼席に移動して。こちらは松本さんがお点前をされました。

遠州流はふくさの色も自由に選べるのだそう。

薄花色の袱紗がとてもお似合いです

光をたたえた棗には、「星のかがやき」という名前がついています。
その輝きが流れ込むように、茶碗にも銀箔が施されていました。銘は「夜気」とのこと。

立礼席のしつらえ
抹茶の色が映えます

干菓子は京都末富さんの紙ふうせん。軽い口当たりが愉しいお菓子です。
五色の色合いに、七夕の五色の短冊を想像しました。

紙ふうせん

お茶名にも「星屑の白」とあり(福寿園)、随所に星の光に包まれるようです。繊細でロマンチックな、松本さんのテイストで統一されたお席でした。

最後にもう一度茶会記を見ながら、お茶碗やお菓子について、お話しました。

茶会記を見ながら
お茶碗の由来について説明される伊藤さん

終わりに

松の間を風が通り抜け、桜や桃が咲き乱れる昼と、静かな空に星が輝く夜。春の一日を巡ったようなお茶会でした。

会が終わったお水屋で、濃茶席のお茶入の木箱の中に、歌が書かれた説明書きを見つけました。

「橋姫の織や錦と見ゆるかな 紅葉いざよう宇治の川浪」

このお茶入が、本席と立礼席をつないでいたのでしょうか。隠されていた秘密を発見したようで、特をした気持ちになりました。

伊藤さんと松本さんによるこのお茶会の名前は、江戸時代の連歌や茶道、和歌の集まり「連」に由来するのだそうです。この日は第2回の開催でした。

現代の最新のテクノロジーを牽引する伊藤さんと松本さんが織りなす「連」が、この先どのように広がっていくのかが、楽しみです。


写真:山平敦史
文:山平昌子