🎥『十二単衣を着た悪魔』にみる、「びょうびょう」という犬の擬声語の謎を探る

📕『犬は「びよ」と鳴いていた　
日本語は擬音語・擬態語が面白い』
　山口沖美 著（光文社新書）

これは
🎥映画『十二単衣を着た悪魔』を見た後に
図書館で発見した本。
タイトルに強烈に惹かれて手を取った。
今でこそオトノマトペ辞典とかあるものの
この本が刊行された頃（2002年）ではそもそも
ここまで研究された本が初らしい？

以下、映画のネタバレちょこちょこっと含みます。
脱線や自己流解釈はおおいに含みます。

（自分の頭の中から写し取っておきたい事だけ書いてるので
  そもそも映画観てないと分からないかもしれないし、
  なんなら映画観てても分からないかもしれません。
　なんというか言語学が好きなだけでして。あしからず。）
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《※ざっくりすぎるあらすじ：
  伊藤健太郎くん演じるフリーター 伊藤雷が、源氏物語の世界に迷い込み
  陰陽師 雷鳴として平安の世で生きる。そして…という話》

雷鳴が犬筥（いぬばこ）という縁起物の小箱を一対を両手で持ってきて、おちゃめに「びょうびょう」と声を発する場面がある

さては当時の鳴き声だな、と思ったものの
その物体が猫に見えてた私は「猫の音読みのビョウというのは右側の“苗”の音だけど、猫の鳴き声からあてていたのか、なるほどなるほど！」などと思っていた。
なにがなるほどだ。とんだ大間違い、いや犬間違いである。
（もっともらしくツイートしなくてよかった）

まぁ動物の鳴き声だとすぐ分かった私の読みは当たらずとも遠からずだったわけだけど。（負けず嫌い）

ちなみに当時は犬は野放し、猫は首輪をつけて飼われていたということで…
ああ、確かに！
弘徽殿女御のとこにいた黒猫に首輪がついていたのもそういうことかと。
（これは一般的なのかどうか気になってたの）
そういや現代でのイラスト（劇中の“源氏物語と疾患展”のパンフにて）では弘徽殿女御に対して首輪でつながれた黒猫が総毛だって威嚇し（恐れ？）てるけど、実際は穏やかに和やかに女御の元で暮らしてんだよね。
…印象操作怖いわ～～～（#^ω^）

そして『源氏物語』での子猫の鳴き声は「ねうねう🐈」
「寝よう寝よう」と掛けられたりしてたらし。まったく好きものだわ源氏。
（ごめん、息子の柏木の話だった。想いを立ち切れない人妻の猫をもらいうけ、その猫の鳴き声に「積極的だなぁ（苦笑い）」ってどんだけだよ…。
好きもの遺伝子おそるべし。）

･･･話を戻そう。
現代、犬の鳴き声としてメジャーな「わんわん🐕」は江戸時代から。
英語圏では「バウワウ」というように、人間の言語で発してないから
当然同じものを聞いても違う音ととらえるのは当たり前で
英語の方がバ行音がある分「びょう」と通じるものがある。

でもって昔々の人間と会話できるわけはないから
動物の鳴き声をかつてどう捉えていたかは当時の文献から探るしかない。

それによると

平安時代には「ひよ🐕」だったという。

…ひよ？！
ひよこじゃあるまいに。🐣

そこで思い出してほしいのが、古文の授業。
古語には濁点・半濁点がない。文字の大小で拗音を表記することもない。ついでに句読点もない。
だから当時の言葉を考えるにはそこも鑑みなければならない。

つまり、いろいろな文献から察するに（専門的なことは割愛）
「びよ」もしくはオノマトペによくある同じ音を連ねた表記では「びよびよ」
これが犬の鳴き声だったらし。

そしてこんなのもある。

「べう」

なんだ べうって…

ここでまたも思い出してほしいのが、古文の授業。
母音＋u＝長音になるというルールがある。

誰もが暗唱させられたであろう『枕草子』（清少納言）の有名な
“春はあけぼの”で始まる、あれ
‘やうやう白くなりゆく山際…’
やうやう→ようようと読んだように、
他の例では逢坂（あうさか）と書いて、おうさかと読むように。

こんなんあったよね
au＝o：（おー）
iu＝yu：（ゆー）
eu＝yo：（よー）←注目！

つまり
べうbeu＝byo：びょー
ほらきた

びょう！

びょうびょう！！＞🐕

すっきりー！！！

声に出してみれば分かるけど、
「びよ」が「びょう」に転じてもおかしくない。

あれ、もしかして雷鳴、「びょうびょう」じゃなくて「びよびよ」って言ってた？？
まいっか。声に出したら同じようなもんだから。

しかし、まだここで話は終わらない。

なんで「びょうびょう」から「わんわん」になったのか。
実は、犬の鳴き声の変化は環境の変化によるものかもしれないという。
え。どゆこと。

平安時代当時、猫は首輪でつながれているという話をちらりとした。
中国からきた珍しい動物（唐猫）として貴族に愛玩されていたからだ。

ところが犬は。野放し。つまり野犬。
今でこそ、野良犬はとんと見かけなくなり（保健所に連れ去られちゃうもんね…）、狂犬病なんかの心配もなくなったけど。
犬はもともと狼であり、野性で群れをなす肉食動物。人間の傍で可愛がられてはいなかった。
つまり、遠吠えが一般的な犬の声だったのだ。

（そういや今の犬だって救急車の音に反応して遠吠えするけど
  あれって遠吠えの周波数?と同じだから仲間だと思って応えてるんだって。
 それを知った時の、可愛いやら哀しいやら、感情の忙しさよ…）

江戸時代以降、犬が身近な存在となり
普通の鳴き声に「わんわん」があらわれ、
遠吠えの「びょうびょう」と区別されはじめた。
そして犬が愛玩用として人間との距離が近くなった今、
集団行動を伴わなくなった今、
遠吠えの必要のなくなった犬は「わんわん」としか鳴かなくなり
「びょうびょう」表記が淘汰されたという…

なんとも深い（？）歴史が詰まっていたわけです。
まじか…

ちなみにあの犬筥、雌雄一対で（だから雷鳴は２つ持ってた）出産祝いの縁起物だそう。

ああ…

憔悴しきってただただ無為に時を過ごしていく雷鳴と
荒れた部屋の中に
打ち捨てられた犬筥、哀しかったな…。

そんなこんなで。
犬の鳴き声にポイントあてて書いたけど
この本では他の動物はじめ、あらゆる角度からオノマトペについて書かれてるので興味ある方はぜひ。

たとえば『源氏物語』では女性の美しさの形容も人によって全部言い分けられてたとか…
髪の美しさを表す形容も、位（くらい）とか年齢によって3種類使い分けられてると。
すごい。
やっぱ一度は『源氏物語』を原文で読んでみたい。絶対無理だけど。
映画に出て来た人くらい…せめて弘徽殿女御の分は確認してみたいものだ。

　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　＝ワン＝

　　　　　　　　　　じゃなかった

　　　　　　　　＝完＝