【オーロラ観測体験記】氷点下40度、冬。
自然に囲まれた神秘の国、フィンランド。
冬が訪れると、国の北部ではオーロラを観測することができます。
しかし、毎夜必ず拝めるというわけではありません。
オーロラを拝めるか否か、それは己の運次第です。
この物語は、己の"運"に戦いを挑んだ、とある冬の記録である。――
❄️☃️出発前
「オーロラ観に行こうぜ!」
いまからおよそ10年前、肉眼でオーロラを観ることが夢だったわたしは、友人を誘いフィンランドへ行く計画を立てました。
中島が磯野を野球に誘うほどの軽いお誘いに、友人は二つ返事で乗ってくれました。
さっそくわたしたちはオーロラ観測のためのツアーを探し、予約。
スケジュールに組み込まれた観測チャンスは全3回。
「3回もチャンスあるなら、1回は見れるでしょ。」
余裕のわたしたち。
しかし、過酷なチャレンジになるとは、このときの我々は知る由もありませんでした。
❄️☃️1日目
フィンランドに飛び、ヘルシンキ空港から北極圏の入り口・ロヴァニエミへ。
1日目、オーロラ観測は夜なので、それまでは近くにあるサンタクロース村で自由行動です。
トナカイ率いるそりに乗り、本場のサンタクロースと記念撮影、さらにトナカイのお肉で腹ごしらえをして、迎えた夜。
いよいよ1回目のオーロラチャレンジです。
観測スポットはバスで40分ほど移動した場所、辺りには明かりひとつない、漆黒が広がる開けた雪積もる場所でした。
フィンランド北極圏の冬、夜は極寒です。
マイナス40度になることもあります。
わたしは極寒を凌ぐため、万全を期しました。
ヒートテック極暖の上にフリースタートルネックを着用し、その上から最強の防寒装備・スキーウェア、ズボンも2枚履き。さらに、もこもこの靴下に、もこもこのスノーブーツ、そしてもこもこのニット帽に加え、カイロも装備。
考えうる防寒の完全体です。
しかし、驚き。
これでもかというほど寒い。
ブーツに仕込んだ足の裏用のカイロも、ものの10分であえなく撃沈。すぐに冷たくなってしまいます。
外に直立不動でいることが苦痛なので、乗ってきたバスに出たり入ったりしながら待つこと30分。
あたりは灯りひとつない暗闇、一向にオーロラは現れません。
この日はやや天気が悪く、雲が出ていたこともあり、見えなさそうというツアーコンダクターの判断でこの日のチャレンジは終了しました。
❄️☃️2日目
2日目、日中はロヴァニエミの街中を散策します。
近くの教会や図書館、博物館へ足を運びます。
海外の街中って、当然ですが日本とはまったく違うので、どこへ行っても新鮮で面白いですよね。
そして夜、臨む2回目のオーロラチャレンジです。
この日は1日目とは別の場所、街の近郊にあるロッジでの観測です。
ただ、ロッジの近くは明るいためオーロラが出ても見えないため、観測するにはロッジからちょっと離れた暗がりでの観測になります。
しかし、寒い。
まじで寒い。
10分も外に出ていられません。
あまりの寒さにスマホの充電もみるみるうちに減っていきます。
ロッジでは焚火をしており、観測2、焚火8の割合でオーロラを待ちます。
しかし、待てど暮らせどオーロラは現れません。
この日雲はなく、晴れていたのですが、結局オーロラは出ず。
残念ながら2回目の観測チャレンジも撃沈でした。
❄️☃️3日目
3日目、この日はシベリアンハスキーによる犬ぞり体験をしてきました。
犬かわいい、めっちゃ楽しい。
スマホで犬ぞりの様子の動画を撮っていたんですけど、1時間もしないうちに100%あったはずの充電が切れました。
持っていてよかった、モバイルバッテリー。
そんなこんなで夜、3回目の観測。泣いても笑っても、これが最後のチャンスです。
この日はどこに行ったか忘れてしまいましたが、1日目と同じような景色の、あたり一面真っ暗で何も見えない開けた場所だったと記憶しています。
しかし、痛い。
寒すぎて、顔が痛い。
凍てつく寒さの中、粘ること1時間。
オーロラは、残念ながら見えませんでした。
寒さに耐え忍び、見えないことがあるのか、、、
わたしたちは落胆し、宿に戻るのでした。
❄️☃️さいごに
オーロラを観ることができず、悲しみに暮れていた最中、宿に着くなりツアーコンダクターの方からアドバイスをいただきます。
「宿から歩いて20~30分くらいのところにオーロラ観測できる場所があるよ」
なん、、、だと、、、!?
青天の霹靂、寝耳に水です。
これは行くしかない。
友人と意見が合致します。
夜中の12時過ぎ、わたしたちは最後の望みに賭け、厳しい寒さの中、オーロラ観測へと再び歩み始めます。
歩くこと30分、教えてもらった観測ポイントに到着します。
そこにあるのは、まっくろな空と、まっしろな雪景色。
遠くに街の明かりがぽつり、ぽつりと見えますが、自分たちの目の前には"何もない"が広がっています。
最後の観測ポイントに辿り着いて、10分ほど経ったときのことでした。
突然、空に薄いモヤのような、白っぽいカーテンのようなものが見え始めます。
「あれ、オーロラじゃない!?」
しばらく目を凝らし、よくよく観察していると、薄く白いカーテンのようなものが次第に色濃く変化していきます。
「みえた!!!」
友人がスマホで写真を撮ろうとしますが、スマホのカメラでは映りません。
それならばと、わたしはこの日のために購入したミラーレス一眼を取り出します。
満を持して、真打の登場です。
オーロラを撮るため、覚えたての「F値」とやらをいじり、取り込む光の量をいい感じに増やします。
試行錯誤を経て、撮影した渾身の一枚がこちら。
「写った!!!」
重なる歓喜の声。
無事オーロラを写真に収め友人と喜びを分かち合ったところで、オーロラはすっと闇の中に潜り、姿を消しました。
オーロラの消失を確認後、宿へ戻ることにしたわたしたち。
しかし、まあ寒い。
我に返り、アドレナリンを放出しきったわたしたちは、寒さを自覚します。
前髪、まつ毛がともに凍り、身体の芯から凍るような寒さが身を包みます。
しかし、わたしたちの心はほくほく。温かさに満ちていました。
氷点下40度、冬。わたしたちの物語は、運に勝利し、「幸運」というかたちで幕を閉じたのでした。