あんたみたいな"ブサイク"
「あんたみたいなブサイクになにができるの」
なにができるのだったか、
仕事もできないのだったか、
なにがわかるのだったか、末尾は覚えていない
だが、【あなたみたいなブサイク】という言葉だけが脳を反芻していた。
これは半年だけやった、デパ地下のとある食品ブランドのレジ打ち・品出しバイトで客から言われた言葉である。
私はレジ打ちが嫌いだった。
同じことを繰り返す作業が苦手な私にはすこぶる単調でつまらなかった。
早く終わらないかな、そう願っていた。
混んでいる時間帯。
見るからに嫌味を言いそうな、感じの悪そうな女性のお客さんが私のレジに来て、
ありがとうございますと声をかけると
早くしてよ、あんたみたいなブサイク#@¿;´!…
そう言われた。
言われた瞬間は理解が出来なかった。
貼り付けた笑顔が凍りついていくのを感じた。
手が震えた。
私自身、自分の顔が可愛いだなんて思ったことは微塵もなかった。
だからこそ、コンプレックスになっていた。
言われなくても自分が可愛くないことなど分かっていたけれど、改めて他人から言われるとなるとそれは別だ。
この言葉は、
いまでも深く心に刺さっていて、
何かにつけてフラッシュバックする。
だからなのだ、彼の「かわいいね」という言葉が信じられないのは。
彼に、私のどこが好き?と聞くと
「顔」と答える。
信じられないのだ、
だって私は"ブサイク"だから。
赤の他人から保証された、
正真正銘の"ブサイク"なのだから。
私は昔から美術(の中でも特にデザインなど)が好きだった。
だからメイクはお絵描きみたいで、楽しくて、自分磨きという名のお絵描きが捗った。
こうやって、高校生からずっと練習を重ねていたから、人よりメイクは研究している方だと思う。
メイクさえすれば人前に出ても
まだ恥ずかしくないような、そんなレベルになっているはずだ。
でも元から可愛い子には敵わない。
そんなこと分かっている。
なのに、彼は私の顔が好きだという。
すっぴんすらも。
赤の他人から保証された"ブサイク"が
(しかもこれを言われた時、ちゃんとメイクしていた)
顔が可愛いからと好かれることがあろうか。
豈に好まならんや
__どうして好かれることがあろうか。いや、好かれるはずがない。
彼を信じたいのに信じられない所以はここにある。
どうしても嘘に感じてしまってたまらない。
彼を信じられる日は来るのだろうか、
この言葉が脳裏に焼き付き続けているうちは無理だろうな、なんて思う。
もはやこの出来事は私の中でPTSDの域に達しているまであるのだ。
このトラウマを溶かしてくれる言葉があればいい。
それさえあれば、この呪縛から解き放たれ、彼の「可愛い」を素直に受け取れるのに。