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“愚痴は惚気と紙一重”《マガジン“新書沼にようこそ” vol.6》

『蔵書の苦しみ』/岡崎武志

単なる読書家や読書術の本ではありません。
のっけからすっ飛ばしてます。
著者含め、「蔵書家」と呼ばれる人たちの生態が余すところなく描かれます。

いくら本が多くても、本棚におさまっているかぎりは、いつでも検索可能な、頼もしい"知的助っ人"となる。それが、本棚からはみだし、床や階段に積み重なり始めたとたんに、融通のきかない"邪魔者”になっていく。
そして、やがて抑えがきかなくなると、氾濫は“災害"の域にまで達する。今のところ、氾濫は地下に留まっているからいいようなものの、やがて一階部分を侵蝕し、それでも飽き足らず、階段を伝って二階にまでせり上がってくると、本当に"大惨事"となる。

p13

私も、本読みの端くれとして、それなりの量の蔵書なり、積読なりはしていますが、本棚の倍を超えるような本が床にまでびっしりということはさすがにない。
(6畳一間住まいの時はかなり怪しかったけれど)

私の書斎も書棚こそ倒れなかったものの、積んである本、本棚の上部に置いた本などは床に散乱した。落葉のように降り積もった床はいまだそのままで、仕方なく本を踏んで歩いている。おかげで、本がいく冊も壊れた。歪んだり、函が壊れたり、表紙が破れたり、無惨な姿をさらしている。本は踏むものではない。

p92

増え過ぎた本のために、別に部屋を、あるいは、前話の富永さんのように、トランクルームを借りる人もいる。もちろん、余計な家賃や借り賃がそこにかかる。本を部屋に持たない人にとっては、まったく理解不能な出費だと思う。

p148

読めば読むほど、「あ、これはダメなやつだ!」と思いつつ、どこか羨ましい気持ちがするのはなぜでしょう。

それはおそらく基本的に蔵書する方というのが、本そのものが好きでたまらない人であり(不精で溜まるという例外もあるようですが)、自分もその末輩に位置するから。

「ちょっとためしに書いてみただけなのに、なんかイイねがめっちゃついて、通知がうるさくって困ってる」
「いや、今度、新プロジェクトに抜擢されちゃって、寝る暇もないわ〜」
「彼/彼女と歩いてるとめっちゃ振り返られるんだよね〜」的な、愚痴に見せかけたある種のマウントというか惚気なのだろうと。

まぁ、「あとがき」で著者自身も述べていることですが。

結果、わかったことは、「本が増え過ぎて困る」というぼやきは、しょせん色事における「惚気」のようなもの、ということだ。「悪いオンナに引っかかっちゃってねえ」「いやあ、ぜいたくなオンナで金がかかって困るのよ」、あるいは「つまらないオトコでさ、早く別れたいの。どう思う?」など、これらを本気で悩みとして聞く者はいない。そして「苦しみ」は多分に滑稽でもある。救いは、この「滑稽」にある。だから、「蔵書の苦しみ」については、他人に笑われるように話すのがコツだ。
聞かされた方とすれば、「自分で蒔いた種なんでしょう、勝手にしてくれ」と思うしかないのだから。笑いぐらいなけりゃあ、聞いてもらえない。その点、「色事の苦しみ」も「蔵書の苦しみ」も、まったく同じではないか。

あとがきより

著者が本を手放すことを心に決めるくだりが好きで、何度読んでも大笑いしてしまう。
(私は活字の本を読む時が漫画よりもお笑いよりも1番大笑いするらしいです)
少し長めですが、引用させてください。

地下の書庫がいよいよ収拾がつかない事態となってきた。床が見えないほど散乱した本や雑誌。その上を踏んで歩かねばパソコンのあるデスクにたどりつけない。かんじんな本が見つからないことは、もはや常態で、自分の書評記事を貼り付けて保存しているスクラップブックも、どこかへまぎれてしまった。
あれがない、これがない。そんな徒労と思える捜索にもうんざりしてくる。それでも日々、本は降り積もるように増え続ける。
このままでは本が嫌いになりそうだと思った。それだけは避けたい。自分がよって立つべき存在意義がなくなってしまうからだ。

p205

この後、著者は「一人古本市」を開催し、本を大処分。
そのエピソードも面白いのでぜひ。

おすすめです。

残念ながら、現在は文庫しか紙書籍がないようです。
Kindleも出ている(装丁は新書の体)のですが、内容リスペクトとして、この本はぜひ紙書籍で読みたいものです。

そしてもっと残念なご報告としてはこの記事を書く上でパラパラと読み返している間に興味をそそられ、ついポチった本が数冊あること。

人の振り見て我が振り…直せない…


最後までご覧下さり、ありがとうございました。 どうぞ素敵な読書生活を👋📚

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樹田 和(いつきた なごむ)
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